八月十日……その七……
夏休み……八月十日……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は家族とクラスメイト二人と共に花火大会兼夏祭りにやってきた。
「ねえ、壊人。楽しんでる?」
黒髪ロングと黒い瞳と無駄にでかい胸と黒い浴衣が特徴的な壊人の母親『不死鳥 響』は彼にそう訊ねた。
「ん? あー、まあ、それなりに楽しい……かな」
「へえ、そう……。なら、良かった」
「……えっと、一応言っておくが、別に田中さんと梅雨原さんがいるから楽しいわけじゃないぞ。こうして家族みんなでこういうのに参加したことがなかったから、それで……」
「そのくらい分かってるわよ。だって、私はあんたの生みの親……じゃなくて、あんたの創造主なんだから」
「いや、そこは言い直さなくていいだろ」
「え?」
「たしかに俺はあんたに生み出された……。けど、そういう言い方はしないでくれ。その……なんていうか……あれだ。少なくとも俺は、あんたのことを本当の母親だと認めてる……。だから、俺の創造主だなんて言わないでくれ」
彼は彼女から目を逸らしながら、頬を赤らめた。
その横顔を見た瞬間、彼女は無性に彼の頭を撫でたくなった。
これが母性本能……というものだろうか?
いや、それは少し違う気がする……。
彼女は無意識のうちに彼の頭に手を置いていた。
そして、未だに頬を赤く染めている彼の頭を優しく撫で始めた。
「な、なんだよ……急に」
「んー? いやあ、なんか急にあんたの頭を撫でたくなっただけよ」
「そうか……。けど、俺の頭を撫でても何も出ないぞ?」
「ううん、ちゃんと出てるわよ。照れオーラが」
「なんだよ、それ」
「あんたが照れてる時にだけ出る初々《ういうい》しいオーラのことよ」
「はぁ? 俺の頭からそんなおかしなオーラが出るわけないだろ」
「ううん、そんなことないわよ」
「いや、だから、そんなことあるわけがな……」
その時、背後から凄まじい殺気を感じた。
「あー……イライラする……」
「……? ねえ、壊人。どうかしたの?」
その時、彼の体から赤いオーラが出始めた。
彼が突然、そんなことをし始めたため、彼女は少し困ってしまった。
「はぁ……。もしかして、野良超能力者が近くにいるの?」
「ああ、そうだ。本当に……しつこいやつらだ……」
彼の顔がだんだん怖くなっていく。
それは言うまでもなく、怒りに取り憑かれた者の顔だった。
その顔を見た直後、彼女はふと思い出した。
彼がまだ水色の液体と共に筒状のガラスケースに入っていた時のことを……。
「ねえ、壊人。覚えてる? あんたが研究所を破壊する前のこと……」
「はぁ? どうして今そんなことを……」
「いいから答えて……」
彼女は彼が最後まで言い終わる前にピシャリとそう告げた。
「……忘れるわけねえだろ。あんたは幼少期の俺の体の中に無限に生み出され続けるこの忌まわしい力を半ば無理やり宿らせたんだからよ」
「そうね……。けど、そうでもしないとあなたは今頃、空の上だった……。そうよね?」
「それがどうした……。そのせいで俺は……」
「けど、あんたはその力をその身に宿した瞬間、あんたの周りにいた研究者のうち、私だけを残して破壊した……。あれは、あんたの意思? それとも何か本能的なもの?」
「そんなこと……俺にも分かんねえよ。けど、これだけは言える……」
彼は急に立ち止まると、闇しか感じられない黒い瞳で彼女を睨んだ。
「俺は……あんたを許したわけじゃない。今でも恨んでる。でも……俺をこの世界に解き放ったからには楽には死なせない……。そんでもって、野良超能力者たちをこの世から消し去るまで俺は死なない……。俺が普通の人間になるためにな……」
「……そう。なら、それまでは……」
「ああ、嫌でも、あんたの指示に従うよ。だから、今は……」
「分かってるわよ、他のみんなを連れてここから離れればいいんでしょ?」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
「そう……。じゃあ、気をつけてね」
「あんたこそ、背中に気をつけろよ?」
彼はそう言うと、クルリと回れ右をした。
彼女は他のみんなを連れて、その場から離れた。
彼は、体内にある破壊エネルギーを糸の形にすると、その真っ赤な糸で野良超能力者の体を束縛した。
「……能力は『気配殺し』か。まあ、殺気がダダ漏れだったから、見つけるのは簡単だったな!」
彼はニシッと笑うと、破壊エネルギーを糸に集中させた。
「オールブレイカー……発動……」
「うわああああああああああああああああああ!!」
彼は顔も名前も知らない相手を存在ごと破壊した。
心が痛まないわけではないが、彼が普通の人間になるためには、こうしないといけない……。
普通の人間になると決めたのは、彼自身。
だから、今さら逃げることも引き返すこともできない。
それが例え……悲惨な結末へと少しずつ近づいていると知っていたとしても……。




