八月十日……その六……
夏休み……八月十日……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は家族とクラスメイト二人と共に花火大会兼夏祭りにやってきた。
「ねえ、壊人。あれは何?」
パーフェクトブレイカーこと『不死鳥 総太』は、オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』にそう言った。
「んー? あー、あれはな。『金魚すくい』だ」
「金魚……すくい?」
髪型も瞳の色も壊人にそっくりな……というか、まったく同じな総太は、キョトンとした顔でそう言った。
「ああ、そうだ。まあ、簡単に言うと、あの子たちみたいに、面の部分が紙でできている丸いしゃもじみたいなやつで、泳いでる金魚を掬って、あとは……」
「お刺身にして食べるの?」
「そうそう、しばらく水槽の中で飼って、食べ頃になったら……って、そんなわけないだろ……」
「え? そうなの?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、なんで金魚を掬うの? 食用じゃない魚を飼って、何が楽しいの?」
「うーんと、それはだな……」
彼は少しの間、考えた。
自分より世間のことを知らなさすぎる存在に、金魚すくいのことを説明するにはどうしたらいいのか必死で考えた。
うーん、うーんと唸りながらも、彼はその答えを導き出した。
「実は俺も金魚すくいのことは……というか、まだまだ知らないことが多いんだよ。だから、今ここで俺が言えるのは……思い出づくりの一環……かな?」
「思い出づくりの一環……?」
「あー、そうだな。例えば、お前が一人で祭りに来たとするだろ?」
「世界が滅んでも僕と壊人だけは生き残るから、それはありえないよ?」
「いや、それはまあ、確かにそうなんだけどよ。例えばの話だ」
「なるほど」
壊人は一度、咳払いをすると語り始めた。
「コホン……。えーっとだな。お前が一人で祭りに来たとする。祭りの会場内では食べ物や景品は売っている。しかし、一人ぼっちのお前にとっては、ひと時の安らぎでしかない」
「そんな時は、ヒヨコさんに慰めてもらうよ」
「ああ、そうだな。もしかしたら、口の周りに黒いヒゲが生えているヒヨコがいるかもしれな……って、今はヒヨコの話じゃなくて、金魚の話だろ?」
「あっ、そっか。ごめんね、壊人」
「いや、俺は別に気にしてないから、お前が謝る必要はないぞ。さて、話を戻すか」
彼は、ヒヨコたちのところに向かおうとしていた総太を連れ戻すと、再び語り始めた。
「それでだな、お前が一人寂しく歩いていると、金魚すくいの前で足が止まるわけだ。それは人が自分とは異なる種に対して抱く好奇心からだと思ってくれればいい。そんでもって、お前は金魚たちが監禁……じゃなくて、一時的に保護されている水槽の中を見るわけだ。縦横無尽に……そして、何を考えているのかよく分からない少し飛び出た瞳を時折動かしながら泳ぐ金魚たちの姿を見ているうちに、お前は自然と愛着が湧いてくるわけだ。で、その日まで金魚すくいをしたこともなかったお前は、おっちゃんから一匹プレゼントされた金魚を家まで持って帰る。それから、お前と金魚の『金ちゃん』との生活が始まるわけだ……。お前はそいつと暮らしているうちに毎年『夏祭り』の日になると、『金ちゃん』の友達、ライバル、お嫁さんを求めて、外に行くようになり、いつしかそれがお前の『夏の思い出』になっていくわけだ……」
彼の話を聞き終わった瞬間、総太は『金魚すくい』のおじさんがいる方へ向かい始めた。
「お、おい! 別にしなくてもいいんだぞ!」
彼は総太に向かってそう言ったが、その時にはもうすでに、金魚を掬っていた。いや、救っていた……。
壊人のところに戻ってきた総太は、ビニール袋の中でスイスイと泳ぐ金魚たちを壊人に見せた。
「お、お前すげえな。一気に五匹も……。初めてとは思えない華麗な身のこなしだったぞ」
彼がそう言うと、総太はニコッと笑いながら、こう言った。
「僕とお母さんと心悟と壊人と、もうじきやってくる新しい家族だよ」
「なるほど。だから、五匹も掬って……って、もうじきやってくる新しい家族って誰のことだ?」
「それは……まだ秘密……」
「そうか……。まだ秘密か。ということは、もうじきそいつがうちにやってくるってことだな?」
「さぁ? それはどうかな?」
その直後、二人は他のメンバーとはぐれてしまったことに気づいた。
二人は周りの雑音を破壊……というより、遮断すると他のメンバーの心音を頼りに、他のメンバーがいるところへ向かい始めた……。




