八月十日……その五……
夏休み……八月十日……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は家族とクラスメイトと共に花火大会兼夏祭りにやってきた。
「ねえ、お兄ちゃん。一緒に『わたあめ』食べようよ」
壊人の義理の弟である『不死鳥 心悟』はニコニコ笑いながら、彼にそう言った。
「ん? あー、まあいいが、お前『わたあめ』好きなのか?」
「うん! 好きだよ! 甘いものとお兄ちゃんは僕にとって必要不可欠な存在だよ!」
「そうなのか? でも甘いものばかり食べてたらダメだぞ? バランスよく食べないと病気にかかりやすくなるからな」
「それは分かってるよ。でも、お兄ちゃんがいない世界でなんて生きていけないよ……」
心悟が少し俯くと、彼はそっと心悟の頭に手を置いた。
「いいか? 心悟。俺はいつでもお前を守れるわけじゃないし、いつかはこの世からいなくなっちまう。これはどうしようもないことだから、しょうがない……。けどな、もしその時がやってきても、お前は俺がいなくても生きられるように強くならなくちゃいけないんだよ。分かるか?」
「それは……そうだけど……」
「まあ、その……あれだ。だから……そ、その時が来るまでは、できるだけ側にいてやるから、俺の目の届く範囲にいろよ……」
心悟はそれを聞くと目を輝かせながら、彼の横顔を見ていた。
「……お兄ちゃん。それって、もしかして……僕に対しての告白……だったりする?」
「なっ……! バ、バカ! 今のはそんなんじゃねえよ! か、勘違いするなよ、まったく……」
「えへへへ、照れてるお兄ちゃん可愛いー。頭撫でさせてー」
「はぁ? お前、それどういう……」
彼が最後まで言い終わる前に、心悟は彼の頭を撫でていた。
「よーし、よしよし。ほら、お兄ちゃん。こっち向いてー」
彼は、ぷいとそっぽを向くと、ニヤニヤと笑っている他のメンバーに対して助けを求めようとしたが、今は心悟の好きにさせてやろうと思ったため、それはあえて行動に移さなかった。
*
「はい、お兄ちゃん。あーん♪」
「え? いや、俺は別に……」
「え? お兄ちゃんは僕の『わたあめ』嫌いなの?」
「いや、別にそういう意味じゃ……」
「ひどいよ! お兄ちゃん! ちゃんと全部食べてよ! 僕の全部食べてよ!!」
その声を耳にした周りの人たちの視線が壊人に向けられる。
心悟の外見は女の子っぽいため、客観的に見れば、彼女を困らせている彼氏にしか見えない。
もしくは妹が買ってくれた『わたあめ』を拒むダメ兄貴だろうか。
まあ、何にせよ……今の彼にできることはただ一つだった。
「はぁ……分かったよ。食べればいいんだろ? 食べれば」
「うん、でも、せっかくだから、一緒に食べようよ」
「え? いや、それはちょっと……」
「ダメなの?」
心悟の『つぶらな瞳』。
壊人の攻撃力が下がった。
「はぁ……分かったよ。一緒に食べてやるよ」
「本当?」
彼が小首を傾げる姿に一瞬、ドキッとする壊人。
彼が男であることを……そして、義理の弟であることを知っている壊人は、首を横に振って気を引き締めた。
「あ、ああ、本当だ。だから、そんな顔しないでくれよ。お願いだから……」
「うん、分かった! それじゃあ、いくよー」
「お、おう」
彼が『わたあめ》を壊人の口元へと移動させる。徐々に近づいてくるピンク色のケサランパサラン。
壊人が仕方なく、それを食べようとした……その時……。
「はむっ!」
「……!?」
壊人の唇に何か柔らかくて熱を帯びたものが一瞬、確かに触れた。
「あー、おいしい。ねえ? お兄ちゃん」
彼から離れて、舌舐めずりする黒髪ショートの少年の顔からは、どこか色気を感じた。
「え? あ、ああ、そうだな。おいしいな」
「へえ、そうなんだ……。僕の唇、そんなにおいしかったんだ」
「え? ちょ、ちょっと待て。それじゃあ、さっきのはやっぱり……」
彼が最後まで言い終わる前に、心悟は人差し指で彼の唇を押さえた。
「男同士だから、さっきのはノーカウント……。だよね? お兄ちゃん」
「あ、ああ、そうだな……。そうだよな、あはははははは」
その時の心悟は、とても満足そうな顔をしていたという……。




