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八月十日……その四……

 夏休み……八月十日……。

 オールブレイカーこと『不死鳥ふしどり 壊人かいと』は家族とクラスメイト二人(女子)と共に花火大会(けん)夏祭りに来ていた。


「ねえ、壊人かいと。あれ、取ってきてくれない?」


 赤髪ポニーテールと赤い瞳と小柄な体型が特徴的な女子『田中たなか いずみ』は彼にそう言った。


「え? いや、俺『射的』なんてやったことないんだが……」


 彼は一度、彼女の要求をこばんだが……。


「ねえー、壊人かいとー。お願いだから、取ってきてよー。ねえねえー」


 彼女がしつこく付きまとったきたため、彼は仕方なく彼女の要求を受け入れることにした。


「はぁ……。あー、はいはい、取ってくればいいんだろ……取ってくれば」


「わーい! ありがとうー! やっぱり壊人かいとは優しいねー」


「はぁ……今のはどう考えても、あなたが無理やり……」


「んー? ねえ、梅雨原つゆはらさん、今なんか言ったー?」


「いいえ、何も……」


「そっか」


「ええ、そうよ」


 黒髪ロングと黒い瞳が特徴的な真顔女子『梅雨原つゆはら かすみ』は、それ以上彼女に、とやかく言うのはやめた。


 *


「はぁ……それで? どれを取ればいいんだ?」


「うーんとねー……あれ!」


 彼女が指差した方向にあった物は、猫のぬいぐるみだった。

 首に赤い首輪を付けている白い猫のぬいぐるみ。

 その首輪には、金色のすずが付いている。

 正直、おもちゃ売り場に行けば、どこにでも置いてありそうなものだった。


「本当にあんなのでいいのか? こういうのって普段手に入らないようなものを狙うんじゃないのか?」


 彼が彼女にそうたずねると、彼女は首を横に振った。


「ううん、私は別にそういうのいらないから、今回はあれでいいよ」


「そうか……。でも、あれバレーボール二個分くらいあるから、取れなくてもうらむなよ?」


「あはははは、私がそんなことで恨むわけないじゃない。もうー、壊人かいとったらー」


 彼女は笑っていたが、彼は心の中でおびえていた。

 ここに来る前、今日呼んでいないはずの梅雨原つゆはらと玄関で遭遇そうぐうした時の彼女の笑顔がちらついていたからだ。


「そ、そうだよな。そんなことで田中さんは恨んだりしないよなー。あはははは」


 彼が笑っていると、彼女はツンツンと彼の肩を人差し指でつついた。


「ん? なんだ? どうし……」


 彼が最後まで言い終わる前に、彼女はニコッと笑った。そして、耳元でこうささやいた。


「もし、取ってくれたら、私の大切な物をあげるから頑張ってね?」


 彼女はそう言うと、パッと彼から離れた。


「た、田中さんの大切な物?」


「うん、そうだよー。まだそれが何かは言えないけどねー」


「そ、そうか……。まあ、やれるだけのことはやるよ」


「うん、分かった。それじゃあ、頑張ってねー」


 彼は射的用のライフルをかまえると、狙いを定めた。


「……安全装置セーフティ解除……目標までの距離を再計算……射撃位置固定……誤差修正完了……遮蔽物しゃへいぶつなし……風向き良好……風力問題なし……精神統一……目標ターゲット補足ロックオン……」


 彼は、いつにもして集中していた。

 これを外したら、世界が終わってしまうかもしれない……。だから、外すわけにはいかない。

 絶対に、これだけは当てる!!

 そんな気迫が彼からは感じられた。

 そして……その時はやってきた。


「…………狙い撃つぜ!!」


 彼はそう叫びながら、引きがねを引いた。彼の叫び声が会場全体へと響き渡る中、コルク製のたまが銃口から飛び出し、目標めがけて飛んでいった。

 それが目標のひたいに命中すると、目標は仰向けで倒れ……なかった。

 まるで誰かが支えているかのように……。

 しかし、彼は笑っていた。

 まるでこうなることが分かっていたかのように。


「……さぁ……ここからが本領発揮だ!!」


 その直後、彼の放ったコルク製のたまけものした。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 そのたまからあふれ出した真っ赤なオーラは、猛々《たけだけ》しい獅子ししの姿になると目標めがけて飛んでいった。


「必殺! 『紅蓮の獅子の猛進クリムゾン・レオ・ストライク』!!」


「うあああああああああああああああああ!!」


 なぜかそこにいた『保護(ほご)(しょく)』使いは、彼の超能力が込められた弾丸の衝撃波によって、存在ごと破壊されてしまった。


「……えーっと、今のはいったい……」


 田中さんが唖然あぜんとしていると、壊人かいとは仰向けで倒れていた白い猫のぬいぐるみを彼女のところへ持ってきた。


「まあ、あれだ。野良超能力者が景品を支えてるのは分かってたから、力を使ったまでだ。だからその……決してズルではないからな」


 彼女は、景品の白い猫を受け取ると、その子をギュッと抱きしめた。


「そっか。なら、良かった。でも、来年は力を使っちゃダメだよ?」


「ああ、分かった。来年はちゃんとするよ」


「そう……。なら、次行こうか」


「ああ、そうだな」


 これが彼のもう一つの異名……『紅蓮の獅子使い』が生まれるきっかけとなることなど、まだ誰も知らない……。

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