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夕方……三本の煙突がある古い工場の中……。
「おい! 約束通り来てやったぞ! 姿を見せろ!」
「待っていたぞ、オールブレイカー」
コンテナの陰から現れたのは、黒いローブと白い仮面(笑顔)が特徴的な人物だった。
「お前が田中さんを攫った犯人か!」
「ああ、その通りだよ。オールブレイカー。いや、不死鳥 壊人くん」
「なぜ、俺の名前を……。そうか、お前、田中さんに何かしたんだな?」
「ああ、私の操り人形になってもらったよ」
そいつが指をパチン! と鳴らすとコンテナの中から飛び出してきた者がいた。
それは……目のハイライトが消えている赤髪ポニーテールと赤い瞳が特徴的な女子『田中 泉』だった。
「言っておくが、彼女を助けるには私を殺すしかないぞ? まあ、君はその前にこの子に殺されるがね」
「なるほどな。俺の友達を操り人形にすれば、お前は俺と戦うことなく、俺を倒せるってわけか。となると、お前の能力は『手品使い』だな?」
「ああ、その通りだよ。オールブレイカー。さぁ、私を楽しませてくれ!」
そいつがそう言うと、操り人形と化した彼女が彼に襲いかかった。
「友達に手を出せない……。お前はそう考えたんだろうが、俺はそんなやつじゃないぞ?」
「何……?」
「オールブレイカー……発動」
「バカめ! その距離では私を殺すことなど……」
その時、そいつは存在ごと破壊された。
「バ、バカなあああああああああああああああ!!」
そいつが破壊された瞬間、彼女はその場に倒れた。
*
「……ん……うーん……あれ……? 私、たしか……」
「ようやく起きたか……」
「……その声は……壊人?」
「ああ、そうだ。お前の友達だ」
「そっか……。助けに来てくれたんだね……って、私、なんで壊人におんぶされてるの?」
「お前が知る必要はない。家まで送ってやるから、今は休め」
「うん……じゃあ……そうしよう……かな」
彼女はそう言うと、スウスウと寝息を立て始めた。もし、彼の力が範囲を指定できなかったら、彼は今頃、彼女の体温を感じることなどできなかった。
彼は、自分の力をまだうまくコントロールできないが、今回はうまくいって良かったと心の底からそう思った。
「お前に降りかかる火の粉は俺が振り払うから、お前は俺のそばにいてくれよ……泉」
この時、彼は初めて彼女のことを下の名前で呼んだ。しかし、当の本人が起きていなかったため、残念ながら、彼女はそのことを知らない……。




