幕開け
夏休み……山……夜……。
「ねえ、梅雨原さん」
「…………」
「寝ちゃった……のかな? まあ、いいや。今から独り言を言うけど、気にしないでね」
赤髪ポニーテールと赤い瞳と小柄な体型が特徴的な女子『田中 泉』は、黒髪ロングと黒い瞳が特徴的な真顔女子『梅雨原 霞』にそう言った。(二人とも寝袋の中である……)
「少し前にさ、みんなで海に行ったこと覚えてる? 私、あの時、途中で倒れて……壊人が日陰まで運んでくれなかったら、今頃、死んでたと思う……。それでね、その時、私、意識が朦朧としてたから、よく覚えてないんだけど……私、壊人の顔のどこかにキス……しちゃったみたいなんだよね……。別に意識してやったわけじゃないんだけど、体が勝手に動いたっていうかなんというか……まあ、とにかく私は確かに壊人の顔のどこかにキスしたみたい……。えーっと、何を言いたいのかよく分からないけど、とにかく私と壊人はそういう関係じゃないから、勘違いしないでね……。そ、それじゃあ、おやすみー」
彼女はそう言うと、目を閉じた。
それと同時に、梅雨原さんが目を開けた。
「私も今から独り言を言うけど、気にしないでね」
梅雨原さんはそう言うと、独り言を言い始めた。
「私はあの時、初めて自分の気持ちに気づけたわ。彼と出会った頃にはこんな感情なんて無かったのに、いつのまにかそういう風に彼を見るようになっていた。彼の行動パターン、彼の仕草、彼の体、彼の超能力、彼の性格……。今挙げたのは私が彼と接していくうちに、完全に頭に叩き込んだ情報よ。そのほかにも色々あるけれど、彼のことを完全に理解するには、まだまだ時間がかかるわ……。他人に興味を持ったことなんて一度もなかった私が、ここまで他人に興味を抱いているのが不思議でならないけど……これだけは言えるわ。私は彼のことが……『不死鳥 壊人』という存在を異性として見ているということ……。私の独り言はこれで終わりよ。それじゃあ、おやすみなさい」
二人は、テントの中で一夜を過ごした。
二人の独り言を隣のテントの中で、ばっちり聞いていた彼は、その晩……両手で顔を隠した状態で身悶えていたそうだ……。
さぁ、いったいこれからどうなるのか……それはまだ誰にも分からない……。




