行っておいで
朝。
「……起きて」
「え? あー、なんだ。満か。どうしたんだ?」
満(キス魔)は挨拶代わり兼栄養補給として俺の唇にキスをした。
寝起きの人の口内は便器より汚いとかなんとか。
まあ、こいつにとってはそんなことどうでもいい。
だって、こいつにとってはこれが食事でこれが当たり前なのだから。
栄養補給を終えると満は俺を一階のリビングまで引っ張った。普段はおとなしいこいつが俺の手を引っ張るほど重要なことがそこにあるのだろうか。
「あっ、お兄ちゃん。おはよう」
「ああ、おはよう……って、一晩でこんなに作ったのか?」
リビング……いや庭まで大量のピコピコハンマーで埋め尽くされている。
文奈(幼天使)がどうやって量産したのかは分からないが、とりあえずこれで準備は整ったことになる。
「うん、そうだよー。あとはこれを世界中に放つだけだよー」
「そ、そうなのか」
何人いるのかも分からない野良超能力者たち。
それがボタン一つでこの世からいなくなる。
力を使おうとする度に俺の能力が発動するのだから、そいつらの人生は良くも悪くも必ず変化する。嫌でも変化する。
「これで俺の役目は終わるんだな」
「まあ、そうなるかなー。けど、お兄ちゃんは死ぬまで最強の超能力者『オールブレイカー』だよ」
「それなんだよな……。どうにかして人になれないのか?」
「うーん、難しいねー。まあ、天界と地獄を巡っていれば、いつかその方法が見つかるかもしれないねー」
「それ、早く死ねってことか?」
「ううん、別にそんなことは言ってないよ。可能性があるとしたらの話だよ」
「そうか。じゃあ、とりあえず役目を終えてから考えるか」
「そだねー」
俺は文奈から手渡された無駄にでかい赤いボタンを人差し指でポチッと押した。
すると、ピコピコハンマーたちが一斉に飛び立った。
行っておいで、そして終わらせてくれ。
この地獄のループを……。




