またな
夏休み……海……。
「えーっと、今のはその……どういう……」
「そのままの意味だ。お前が私のクラスに来ることを知った時から、私はお前のことを異性として見てしまっていた……。私は今まで運命など信じていなかったが、お前という存在を知ってからは……」
「ちょ、ちょっと待ってくれませんか?」
「ん? なんだ?」
「先生は俺のことを殺しに来たんじゃないんですか?」
自分たちで持ってきた白いパラソルの下に座っているのは、オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』。
彼の背中に抱きついているのは、ライフガードのお姉さんの格好をしている『水使い』の『水上 鈴谷』だ。
「私はお前に会えると思ったから、組織の指示に仕方なく従っただけだ。まあ、お前と結婚できるなら、すぐにやめるけどな」
彼女は彼が前に通っていた学校の担任だった。
彼は二日間しか、その学校にいなかったため、彼女のことは覚えていない。
しかし、彼女は彼のことをばっちり覚えていた。
現にこんなところまで追ってきているのだから、それは言うまでもない……。
「……えーっと、それじゃあ、先生は俺を殺す気はないんですね?」
「ああ、それはないな……。しかし、今すぐ自分のものにしたいという願望はある」
「俺は高校生ですよ? そんなことしたら、先生の経歴に傷が付きますよ」
「経歴? そんなものはどうでもいい。私はお前と結婚できるなら、それで満足だ」
「そうですか……。じゃあ、俺のどこが好きなんですか?」
「存在そのものだ」
「えっと、俺は世界を……いやこの世の全てを一瞬で破壊できる理不尽の塊みたいな生命体なんですけど、それでもいいんですか?」
「ああ、もちろんだ。というか、むしろ本望だ」
この人……俺のことが怖くないのか?
いや、違う……。この人は、俺のことを超能力者としてではなく、一人の男として見ている……。
だから、俺がオールブレイカーという力を持っていても普通の人間として接しているんだな……。
けど……。
「……先生」
「なんだ?」
「悪いけど、俺はまだそういうのはよく分からないから、俺が卒業するまで待っててくれませんか?」
彼女は何かを言いかけたが、それを体の中に押し込んだ。
「……分かった……お前にその気がないのなら、仕方ない……。しかし、私は諦めたわけじゃない。今はまだその時ではないと判断したまでだ。だから、くれぐれも勘違いするなよ?」
「……ああ、分かった」
「よし、では、またな」
「ああ、またな。先生」
彼女は彼の言葉を聞くと同時にその場からいなくなった。
まるでそこには最初から誰もいなかったかのように……。




