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心の拠り所

 朝、俺が目を覚ますと目の前に文奈ふみながいた。


「……なんだ? 俺に何か用か?」


「ねえ、お兄ちゃん。深夜に一人で、しかも私に内緒で野良超能力者を破壊しに行ってない?」


 な、なんでそんなこと分かるんだ?

 こいつはエスパーか? いや天使だ。


「どうしてそう思ったんだ?」


「お兄ちゃんの目の下が赤いからだよ」


 なるほど。そういうことか。


「だからどうした? それだけで俺がそんなことをしたと言えるのか?」


「お兄ちゃん、誤魔化すのはやめようよ」


 文奈ふみなは俺をギュッと抱きしめる。

 俺は抵抗しようとしたが、なぜか力が入らなかった。


「お前、俺に何をした?」


「私は何もしてないよ」


「嘘をつくな。だったらどうして俺はお前を突き飛ばそうとしないんだ?」


「それは多分、お兄ちゃんが私を求めているからだと思うよ」


 俺がこいつを求めている……だと?

 そんなのおかしい。だって、こいつと出会ったのは昨日なんだぞ?

 どう考えてもおかしいじゃないか。出会って間もない幼天使になぐさめてほしいだなんて思うはずがない。


「う、嘘だ! 俺はお前なんか嫌いだ!」


「なら、どうしてお兄ちゃんは私を抱きしめてるの? 私のぬくもりを感じたいから? それとも私の肌の感触を感じていたいから?」


「わ、分からない。俺は……自分のことが……分からない。俺はなんだ? 何のために生きているんだ?」


 明らかにおかしくなっている。

 俺はいったい……何者なんだ?


「お兄ちゃん、少し落ち着いて。ほら、深呼吸して」


「深呼吸? えっと、やり方はたしか……」


 あれ? 深呼吸って、どうやるんだっけ?


「お兄ちゃん、とりあえず息を大きく吸って」


 俺は文奈ふみなに言われた通りのことをする。


「よし、じゃあ、それを吐いて」


 俺は文奈ふみなの指示に従う。


「あとはそれを何度か繰り返して。落ち着くまで何回でもやっていいよ」


「あ、ああ……」


 俺はその動作を数回繰り返した。


「……少しは落ち着いた?」


「あ、ああ……なんとかな」


「そう。良かった。一時はどうなることかと思ったよー」


文奈ふみな


「なあに?」


 文奈ふみなが俺から離れようとしたため、俺は彼女をギュッと抱きしめて逃げられないようにした。


「もう少しだけ……。もう少しだけこのままがいい」


「分かった」


 彼女はそう言うと、俺の頭を優しく撫で始めた。

 くそ……。どうしてこんなことになったんだ?

 俺にそういう趣味はないのに。

 みたいなことをお兄ちゃんは考えてるんだろうな。

 お兄ちゃん、私は分かってるよ。

 本当はやりたくないんだよね。使命を果たすためとはいえ、人を存在ごと破壊するんだから。


「お兄ちゃん、これからは私と一緒に行動してね。約束だよ」


「ああ、約束する。だから、今は……」


「分かってる。分かってるから、もう何も言わないで。私は全部分かってるから」


 俺はその時、文奈ふみなという存在を一つの存在として認識した。

 それまではスズメか何かだと思っていた。

 けど、今は違う。こいつは俺に必要な存在だ。

 誰にも渡さない。こいつは俺の希望で心のり所なのだから……。

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