九月二日……その二十二……
九月二日……夕方……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は今、火星にいる。
『マーズレッド』の一件が終わった直後、突如として彼の前に現れたのは……。
「……お前……誰だ? というか、いつからそこにいたんだ?」
「……知りたい?」
ダンボール箱に入っている黒髪ロングと黒い瞳と黒いワンピースが特徴的な美少女……いや美幼女は彼の黒い瞳に訴えかけるように、そう言った。
「え? あー、まあ、知りたいな」
彼がそう言うと、彼女は彼に手を差し伸べた。
「じゃあ、この手を掴んで」
彼女はニコニコ笑っている。
その笑顔からは敵意や悪意は感じられない。
しかし、突如として現れた存在の言うことを聞くほど、彼は愚かではない。
「なぜ俺がそうしないといけないんだ?」
「それは……誰かと手を繋がないと私の能力は発動しないからだよ」
なるほど。条件を満たさないと発動できない能力か。
しかし、どうして俺の前に姿を現したんだ?
「……そうか……分かった。ただし、妙なことはするなよ?」
「そんなことしないよ。お兄さんは私のことを何だと思ってるの?」
なんだ? この懐かしい感覚は。
昔、どこかで会ったか?
いや、そんなはずはない。俺に友達ができたのは高校生になってからだ。
それに、俺の正体がバレたら学校の関係者の記憶の中にある俺に関する記憶だけを忘れさせているから覚えているわけがない。
「お兄さん、大丈夫? 気分でも悪いの?」
「えっ? あー、いや、少し考え事をしていただけだ。気にするな」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、手を出して」
「お、おう」
彼が彼女の手を握ると、彼女はゆっくりと目を閉じた。
そして、静かにこう言った。
「私は今日から、あなたのものです」
「……は? お前、何を言って……」
その直後、彼の右手の甲に赤色のハートマークが浮かび上がった。
彼がそれに目を向けている間に、彼女の胸元に赤色のハートマークが浮かび上がった。
「……な、なんじゃこりゃあああああああああ!!」
「落ち着いて、お兄さん。ただ契約しただけだよ」
「契約? お前『契約』使いなのか?」
「うん、そうだよ。まあ、契約者と同じ能力を使えるようになる代わりに契約者と行動を共にしなくちゃいけなくなるっていう、ちょっと使いづらい能力だけどね」
「そうなのか……。ん? ちょっと待て。ということは、お前は今ので……」
彼女は彼の右手の甲にキスをすると、ニコッと笑った。
「うん、そうだよ。私は今日から、お兄さんの家で暮らすんだよ」
「ふ、ふざけるな! お前を養えるくらいの経済力は……」
「お願い、お兄さん。私、お兄さんのお願いなら、何でもしてあげるから」
ん? 今、こいつ何でもって……。
いやいやいやいや! 惑されるな!
どうせ、あとで代償を支払わないといけなくなるパターンだろ!
そんなよくある手に、俺が引っかかるわけが……。
「お願い、お兄さん。私、このままだとペナルティで死んじゃうよ」
「ペナルティ? それはいったい何なんだ?」
「あのね……契約した人と一緒に暮らせないと、ペナルティとして、このハートマークから蛇が出てきて私の体に激痛しか感じなくなる毒を注ぎ込むの。それがどれくらいの痛みなのかは分からないけど、私そんな痛みに耐えられる自信ないよ」
彼の手をギュッと握る小さな手は、かすかに震えていた。
「……はぁ……しょうがねえな。とりあえず、うちに来い。話はそれからだ」
その時、彼女は彼にとびっきりの笑顔を見せた。
「ありがとう! お兄さん! 大好き!!」
「あっ、こら。あんまりくっつくな、飛びにくいから」
「あっ、ごめんなさい。嬉しくて、つい」
「あー、まあ、その……手くらいなら、握っててもいいぞ」
「え? あー、うん、分かった」
彼女の小さな手が彼の右手の甲にあるハートマークに触れた時、彼は一瞬ドキッとした。
な、なんだ? 今のは……。
「お兄さん、どうしたの?」
「え? あー、いや、何でもない。それじゃあ、行くぞ!」
「うん!」
その直後、二人は破壊エネルギーに包まれた。
そして、地球に向かってものすごいスピードで飛び始めた。




