九月二日……その三……
九月二日……朝……学校の屋上……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は彼の義理の弟のもう一つの人格と話している。
「お兄ちゃん……私と……しよ?」
彼は心悟のもう一つの人格である透に抱きしめられた状態でそう言った。
彼は自分の腕の中にいる彼女の温もりを感じながら、静かにこう言った。
「……ごめん……。それは……できない……」
「どうして? 私に魅力がないから? それとも心悟としたいから?」
彼は彼女の目尻に溜まった涙を拭うと、彼女の頭の上に手を置いた。
「そうじゃない。お前はすごくきれいだし、今も心臓がドキドキしてるから、魅力はちゃんとある。それに血もつながってないから、そういうことをしても双方の同意があればできる」
「じゃあ、どうして?」
彼は少し困った顔をしながら、彼女の問いに答える。
「どうしてと言われてもな……。お前は俺のことをよく知っているみたいだけど、俺はお前のことをこれっぽっちも知らない。だから、もしそういうことをしたいなら、もう少しお互いのことをよく知った方がいいと思うんだ」
彼女は目をパチクリとさせると、ニッコリ笑った。
「お兄ちゃんは優しいね。本当に世界最強の超能力者なの?」
「それは分からない。野良超能力者どもが勝手に、そう呼んでるだけだ」
「そう……」
「ああ、そうだ」
彼がそう言うと、彼女は彼の首筋に噛み付いた。
別に思い切り噛み付いたわけではない。
氷を噛み砕く時より優しく、マシュマロを食べる時より強く噛んだ。
まあ、要するに『甘噛み』というやつだ。
「な、なんかちょっとくすぐったいな、それ」
「そう? じゃあ、もっとしてもいい?」
「いや、そろそろ予鈴が鳴ると思うから、続きはまた今度にしてくれ」
彼女は少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替えた。
「分かった。じゃあ、また今度ね」
「ああ……」
「お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「最後に……私の名前を呼んで」
「どうしてだ? 別に一生会えないわけじゃないだろ?」
「お願い……お兄ちゃん。今回はそれで我慢するから」
彼は彼女の期待の眼差しを裏切ることはできなかった。
「……分かった。じゃあ、行くぞ?」
「うん……」
彼は少し間を置くと、彼女の目を見ながら、こう言った。
「またな、透」
「うん、またね。お兄ちゃん……」
彼女はそう言うと、意識を失ってしまった。
彼は黒髪ショートの少女の体を受け止めると、優しく抱きしめた。
「……バカだな……俺は……。また会える保証なんてないのに……」
彼がそう言うと、心悟が目を覚ました。
「そんなこと言わないでよ。透は、ここにちゃんといるんだから」
心悟が自分の胸に手を当てると、彼は静かに泣き始めた。
「そうだな……そうだよな……。また会えるよな」
心悟はニッコリ笑うと、彼の目尻に溜まったいる涙を人差し指で拭った。




