八月十二日……その九……
夏休み……八月十二日……夜……。
オールブレイカーこと『不死鳥 壊人』は山の守護神『ミコト』ちゃんに『メモリアルブレイカー』を発動した。
それにより、彼に関する記憶のみが抹消された。
「さてと……それじゃあ、やるか。えーっと、存在破壊を破壊すればいいんだよな」
山の頂上でそんなことを呟くと、彼の背後から声が聞こえた。
「……お兄さん、酷いよ。私はお兄さんの命の恩人なのに……」
「……おかしいな……。俺の力の影響を受けないはずはないんだが……」
彼はゆっくりと振り返ると、大きなクスノキの近くに立っている『ミコト』に目をやった。
「さっきのは私の残像だよ。まあ、うまくいくかどうかは賭けだったけどね」
「なるほど……。流石は山の守護神だな」
「褒めたって何も出ないよ。けど、どうしてもお兄さんが私のものにならないのなら……」
白髪ロングと黒い瞳と白いワンピースが特徴的な美少女……いや美幼女『ミコト』は白い光で手甲を作ると、拳と拳をガンッ! とぶつけた。
「無理やりにでも、言うことを聞かせるまでだよ」
「……どうして俺にそんなにこだわる……。俺の何がお前にそうさせるんだ?」
「それは……お兄さんの『心』がそうさせてるんだよ」
「心……だと?」
「うん、そうだよ。お兄さんの心はもう、崩壊しててもおかしくないくらいボロボロで黒く濁ってる。だから、私はそれをなんとかしてあげたい」
彼女がそう言うと、彼はピシャリとこう言った。
「大きなお世話だ。というか、お前に俺の何が分かる? 俺が今まで何をしてきたのか知らないくせに」
「確かに私はお兄さんのこと、ほとんど知らない……けど、お兄さんが苦しんでるってことは分かるよ」
「……あー、そうかよ。じゃあ、お前は俺を救ってくれるのか? 俺の代わりに野良超能力者たちを倒せるのか?」
「そうか……。その人たちがお兄さんを苦しめてるんだね。よし、じゃあ、こうしよう。私が日本以外の場所にいる野良超能力者たちを倒すから、お兄さんは日本にいる野良超能力者たちを倒して」
「はぁ? お前、何言ってんだよ。野良超能力者が何人いるかなんて俺にだって分からないんだぞ?」
「それは世界中の神様たちに頼むから大丈夫。だから……」
「野良超能力者たちは俺の力じゃないと破壊できない。それが例え、神だったとしても……」
「それ、どういうこと? というか、どうしてそんなこと、お兄さんが知ってるの?」
「……そ、それは……その……」
「お兄さん、私に隠し事をする必要なんてないんだよ?」
「……けど、それを知ったら、お前は俺の敵になるかもしれない」
「大丈夫だよ。世界中の神様が敵になっても私だけはお兄さんの味方だから」
「……そんなの……信じられるか!」
彼はそう言うと、夜空へと飛び立った。
「あっ! こらっ! 神様の話はちゃんと最後まで書かないとバチが当たるよー!」
彼女はそう言うと、彼を追いかけ始めた。




