第7話 天然も養殖も遠慮したい
ここの高校、授業が多い。
一日に七時限まで授業がある。
高校は皆そうなのだろうか。
それともここが特殊なのだろうか。
幸い今日の午前中は生徒会による課外活動オリエンテーションだけ。
それでも慣れない授業でくたくただ。
でもそれなのにいつもの心労の原因、そしてさっきの誤解の原因。
それが同時に僕の席にやってきたりする訳だ。
「さあ朗人さん、まいりましょうか」
雅さんに左手をひっぱられた状態で教室を出る。
流石の佳奈美もこのパターンは想定外らしい。
結果、僕の制服をひっぱった状態で無言でついてくる。
異様な状態に交野も小宮も茶化しすらしない。
ただ悲しい目で僕を見るだけだ。
頼む、そんな目で見ないでくれ。
クラスメイトの視線が痛い中、僕と佳奈美はずるずる高等部教室棟廊下を引っ張られて行く。
まるで異形の電車ごっこのように。
「どこまで行くんですか」
何とかその一言が切り出せたのは特殊教室棟への渡り廊下の処でだった。
「勿論、理化学実験準備室までですわ。
本日から私も学園探検部でお世話になりますから。午前中のオリエンテーションの後に入会届を提出致しました。どうぞ宜しくお願い致します」
あ、思わず力が抜けた。
そういう事か。
「だったら先にそう言って下さい」
「あれ、言いませんでしたっけ」
「今日の放課後からご一緒します、としか言っていません」
「あらそうでしたかしら」
石動はそう言うと立ち止まり僕の手を離す。
そして僕と佳奈美の方を向いてまっすぐ立った。
「本日からご一緒に学園探検部で活動させていただきます石動雅と申します。富山県出身で八月一日生まれの獅子座、血液型A型RH+。身長百六十一センチ体重四十五キロ、スリーサイズ上から順に八十四、五十八、八十二。得意教科社会、苦手教科理科数学。どうぞ宜しくお願い致しますね」
そう言って深々と頭を下げる。
「はあ」
仕方なく佳奈美とともに頭を下げつつ僕は思う。
これは天然か養殖か。
ちなみに教室内での自己紹介でも一言一句同じ台詞を彼女は言った。
だから僕も名前を覚えていた訳だ。
もう一度僕は考える。
さあ、この人は天然か養殖か。
ただわかっている事はひとつだけある。
どっちにしろ相手にして疲れる体質だろう。
それだけは理解した。
「それでは行きますか」
「ええ」
という事で僕らは歩き出す。
ああ疲れたもう充分だ。
早く寮の自室に帰って寝たい!
本気でそう思いながら。
だが理化学実験準備室は渡り廊下を渡って二部屋目ととっても近い。
なので逃げる間も無くすぐに辿り着いてしまう。
まあ本当に逃げる気はない。
逃げても事態は好転しないだろうから。
さて、石動は理化学実験準備室の扉をコンコンと二回ノックする。
「入ってます」
中から声が聞こえた。
このチャンスを逃すな!
「お邪魔しました」
僕はとっさにそう言って逃げようとする。
案の定二人に捕まった。
「冗談だよ。まあ入りな。紅茶入れたから」
「では失礼致しますわ」
そう言って石動は扉を開く。
僕を捕まえたままで。