第67話 日常が壊れる音がした
「どうぞ」
先輩がそう返事する。
入ってますというのはやめた模様だ。
扉が微妙に荒く開かれる。
そこにいるのは小柄な少女だった。
佳奈美ほど小柄ではないけれどやっぱり幼児体型。
髪はツインテールにまとめている。
「やっぱりここだったのね、佳奈美。やっと居場所を発見したわよ」
その言葉に何故か佳奈美がひくっ、と体を震わせた。
「知り合い」
こっそり聞いてみた。
「気のせいなのです」
佳奈美、微妙に弱気な口調でそう弁解。
「ここは学内探検部ね。私は一年A組、流山美菜実。ここに入会を希望します」
「個人的には却下したいのです」
あれ、佳奈美がそんな事を。
しかも声がやっぱり弱気な感じだ。
「まあ待て、面白そうじゃないか」
そして神流先輩はその言葉通り顔がにやついている。
「折角だから中で話をゆっくり聞こうぜ」
そういう訳で、空いている僕と神流先輩の間の席に彼女を通す。
彼女は席について改めて回りを見回した。
「なかなかいい部屋ね、ここ。装備も材料も色々揃っているし」
「そう言ってくれると嬉しいですわ。これでも色々整備したんですよ」
取り敢えず一昨日整備したのは僕達です、先生。
「ネットも有線で高速な感じだし薬品も揃っている。いかにも佳奈美が好みそうな部屋ね」
よくわかっていらっしゃる。
何物なのだろう、この人は。
A組の生徒で有る事は間違いないのだけれど。
「さて、色々入会の動機を聞いてみよう。まあ佳奈美のせいだろうけれどな」
「その通りよ」
流山美菜実さん、美菜実さんでいいかな、は頷く。
「折角それっぽい高校に入って、そして佳奈美を見つけて。やっと同類を見つけたと思ったのに教室ではしれーっと猫を被っている。だから佳奈美が本性を出すのはどこでだろうと色々調べていたのよ。
でも佳奈美はいつも放課後さっと消えてしまう。授業が終わった次の瞬間には姿が見えないような状況よ。それはまあ、佳奈美の席が教室の廊下側一番後で私の席が窓側中央。おかげで脱出速度が違いすぎるのが原因だけれども。
だから今日の七限、出席の返事だけして腹痛の振りして抜け出して廊下で見張っていた訳よ。それで佳奈美がこの部屋に入るのを確認して、この部屋が何に使われているのか部員は誰がいるのか調べて、それで乗り込んだ訳」
おーっ!
神流先輩がそんな歓声をあげて拍手する。
「それは立派な探検調査行為だな。それだけでここの部員の資格は十分だ」
「方法としては少し言いたい事もありますけれどね。その熱意は認めてもいいと思いますわ」
こら先生、授業を抜け出る事を認めるんじゃない。
「だいたい何故私が流山さんの同類なのですか」
佳奈美の講義に当然だろうという顔をした美菜実さんは口を開く。
「そんなもの普段の行動を見ればバレバレだ。
ドラマの話題とか普通に付き合った後でこっそり見せるつまらなそうな顔とか。
授業中教科書の興味のあるところだけを先取りして読んでいて、その癖質問された時は板書と回りの人の教科書のページから回答を予測して答える頭の良さとか。
あと物理でこの隣の実験室を使ったときのスライスダック等実験用器具への物欲しげな視線とか。まだ証言が必要か?」
「皆さんストーカーがここにいるのです。おまわりさんこちらなのです」
「甘いな。いにしての人曰く、嫌よ嫌よも好きのうち……」
僕にはよくわかった。
確かによーくわかった。
こいつは自称の通り佳奈美と同類で変人だ。
間違いない。
「それにこの部屋、佳奈美以外にも色々揃いすぎだろう。特殊技能者というべきか。巫に魔女に錬金術師に超能力者か。そこの彼だけは一般人のようだが」
ん? 超能力者というのがわからない。
そして僕以外が一般人で無いという事は……
「はい、私が超能力者です。簡単なサイコキネシスが使えます」
朋美さん、場の雰囲気に負けて自供してしまった。
あああ、何という事だ。
何がどうなってどうしたんだ。
何か日常が壊れる音が聞こえたような気がする。
僕の気のせいであって欲しいけれど。
「さて、理由をしっかり聞いたところで採決だ。
まずは朋美さんの入会、賛成の人は手を挙げろ」
神流先輩の声に本人以外の全員が手を挙げる。
この全員には神流先輩と先生、そして何故か美菜実さんまでを含む。
「よし、全員一致だな。
それでは次、美菜実さんさんの入会、これも賛成の人は手を挙げろ」
これは本当の意味で全員が手を挙げている。
ただし佳奈美はいやいやながら、という感じが見え見えだ。
「個人的には非常に認めたくないのです。でも戦力になる事は確かなのです。そして拒否する理由も残念ながら無いのです」
「よし、新入部員二人を歓迎しよう。という訳で明日はお馴染み装備買い出しとレストランで会食。土曜日は地下道探検だ!」
神流先輩がそう宣言する。
すると更に先生が。
「明日は金曜で当然その次は土曜日ですね。でしたら合宿代わりに私の家で装備の講習をやりましょうか。金曜日がレストランならその他日曜朝まではまた皆で自炊で」
ええ、何ですと!
でも他の皆様方の反応は……
「いいですね。GWは楽しかったですし」
「私も賛成なのですよ」
「いいんじゃないか」
「でも先生のお宅にお邪魔なのでは」
「私の家は一戸建てで部屋が余っていますし、一人暮らしですから大丈夫ですよ」
「ははははは、我が辞書に撤退の文字は無い」
「それは探検部として困るのです」
うん、つまり僕以外の皆が賛成という事だ。
まあ何となくわかっていたけれど。




