第58話 室内合宿の夜
さて、悪いが今日も手抜き料理だ。
というか、調味料が揃っていないので本格的な料理が出来る環境に無い。
一通り揃えたらそれだけで千円はかかってしまうし、日本酒があったのがめっけもの程度の感じだ。
それに僕自身もそんな本格的な料理が出来るほどの技量や知識は無い。
本日の夕食は、
○ 味醂と蕎麦つゆで味付けした鶏肉照り焼き
○ 同じく味醂と蕎麦つゆで味付けしたカボチャの煮付け挽肉入り
○ マヨネーズで味付けしたポテトサラダ
(レタス、キュウリ、パプリカ、ゆで卵入り)
いわゆる手抜き主婦な料理だ。
勿論うちの母親仕込み。
両輪共働きの長男業は結構色々厳しかったのだ。
それでも。
「あ、何かちゃんとした家庭料理という感じですね」
慣れていない人は騙せる模様。
そんな訳で夕食開始。
電気炊飯器で七合炊いた米がかなりの速度で減っていく。
「先生の家、独り暮らしなのに何故御飯釜が大きいんですか」
「時々友達が遊びに来ることがあるからです。家が広くて場所余っていますし。ここからだと九十九里浜も歩いて行けますしね」
先生の家は学校からかなり海の方へ行った方向にある。
車だと大した距離では無いけれど。
食事を食べながらだと自然しょうも無い話になる。
「先生はご結婚の予定は無いのですか。失礼ですけれど外見可愛いですし、ちゃんとした仕事についているし、家もこうしてちゃんとあるのですし」
佳奈美がとんでもない事を聞く。
「絶賛募集中なんですけれどね。なかなかいい条件に巡り会えないんです。下品でなくてタバコ吸わなくて、料理が作れて一緒に山に行ってくれる人がいいんですけれどね。収入は私の収入があるから妥協していいですから」
何気に真面目な顔で先生がそんな事を。
「うちの先生方や大学の方の職員や教官はどうでしょうか」
「いまいちちょうどいい人がいないんですよね。家に帰ったら御飯作って待っていないと嫌な人とか、あと年齢条件的に勘弁してくれな人とか」
結構本気で探したと思われる言葉が微妙に見られるような気がする。
あ、先生が立ち上がり台所へ行き、ビールを3缶持ってきた。
「ごめんなさい。夕食を食べながら飲む癖がついていて。本当は生徒の前ではいけないんですけれどね」
「別に問題無いと思いますよ。ここは先生のご自宅ですし」
そう言っておく。
神流先輩がにやりと魔女な笑みを浮かべた。
「ならそこにいる朗人はどうですか。少なくとも下品では無いし料理も問題無い。体力はこれから鍛えれば大丈夫だと思いますね」
「せめて現役の生徒で無ければね。自分の学校の学生を食ってしまったら教職おわりになってしまいますから」
おいおいおい、危険発言だそれは。
「つまり三年間育てれば大丈夫なのですね」
おいおい佳奈美まで。
慌てて僕は別の人に転嫁を試みる。
「なら大学ワンゲルの方とか。例えば久保副部長とか」
この前地下道探検で会ったあのおっさん顔だ。
「大学高等部合同ワンゲル合宿で知っていますけれどね。あの人はちょっと野生すぎますわね。料理なんかも『何でも焼いて食べれば大丈夫、きっと生でも大丈夫』という人ですから。彼よりはまだ柏君の方がずっといいですね。せめて高等部の学生で無ければ」
おいおいおいおいおい!
戻ってきてしまったぞ。
そんな感じで夕食会は続く。
食事の片付けが終わったらだらだらタイム。
皆で横になってビデオを見ている。
ちなみに装備はエアマットと寝袋だ。
寝袋は合宿時と違い、四角い封筒型と呼ばれるタイプ。
布団で無く寝袋かと思わないで欲しい。
先生自身ですらベッドの上で寝袋というスタイル。
この家に普通の布団は無いそうだ。
何故かマクラだけは完備されているけれど。
「このネットでビデオ見れるのいいですよね。借りにいく手間が省けますし」
「借りに行くにもこの辺お店が無いですからね。寮員だとそもそも借りに行けませんし。まあ通販のおまけ機能なんですけれどね」
そんな感じで話をしながら五人で寝そべって見ている。
ちなみに見ているのはゆるいキャンプを扱った某アニメ。
神流先輩の選択だ。
小暮先生のゆるくないキャンプ道を少しでも是正しよう。
きっとそう考えたに違いない。
案の定ゆるくない派が色々ダメ出しをする。
「装備は必ず表にする!そして出る前に1つずつチェックを入れて確認する!山屋の常識です!」
「下調べが足りない!通行止めなんかは事前に全部チェックです。最近はちゃんとWebで情報が出ています。行程計画を事前に綿密に立案すること。そうすればそれに沿って自然に動けます」
「原付バイクでこの行程はバイクが可哀想です。せめて小型限定取って下さい」
もうケチ付けまくり。
他にも色々。
「食事だけは参考になりますね。ちょっと使って見ましょうか」
とか。
「やっぱりテントはA型フレームよりドームですよね」
とか。
「そのランタン暗いし風に弱いし。同じ買うならせめて普通のモデルを」
なんてコメントつけたりして。
おそらく僕らも普通とかなり違う見方をしてしまったと思う。
まあゆるくない派コメント入りバージョンもなかなか面白かったけれど。
そして先生が出した結論は。
「今度の登山はベーコン焼きましょう」
おいおいおい、飲みまくる気かよ。
ビデオが終わると就寝体制だ。
ちなみに就寝体制と言われても変化は無い。
このまま電気を常夜灯にするだけ。
「僕は他の部屋に行かなくていいんですか」
「隣はミシンや工具出しっぱなしだし上は見せたとおりですから。大丈夫、問題が起こらないように先生もいますから」
ちなみに先生、実はそこそこ酔っている。
顔色が赤いしちょっと口調も違う。
でもまあ、そんな訳で就寝。
この前合宿で使ったのよりいいマットと寝やすい寝袋、それにこれだけは寝やすいマクラのおかげで。
右も左も女の子の寝顔というちょっと何とかしてくれな状況のなかでも、無事僕の意識は落ちていったのだった。




