第56話 便利な道具
キッチンが島式だから見えていたけれど先生、普段はこの部屋だけで生活しているらしい。
ベッドもテーブルも生活用具何もかもこの部屋にある。
ただ部屋が並のワンルームより遙かに広いので何となく格好いい感じに見える。
しかし3LDKという事は、他の三部屋はどうしているのだろう。
「パソコンはこれ」
どう見てもメーカー品に見えない怪しいパソコンが片隅に鎮座していた。
それを起動して雅が二本指打法でポツポツ打ち込む。
「確か施設で世話になっているところが通販をしていたはずです」
検索するとそれらしいページが出てきた。
「これです、麻付幣。サイズは大で」
クリックしてそのままカートへ。
「あ、カード払いで無いと即日配送してくれないそうです。誰かカードは……」
「それ位は私が貸しますよ、お金は後でいいですから」
「先生済みません」
「ではここからは私がやりますね」
小暮先生と雅と場所を入れ替わる。
「できるだけ早く着いた方がいいんですよね。別料金が多少かかっても」
「はい」
「ならば、と」
先生は特急便指定、営業所止め、メール連絡等を慣れた手つきで選択する。
「ここだと通販でないと買えないものが多いですからね。注文には慣れています」
そんな感じでささっと打ち込み、そして。
「もし簡易的にも神事をやるなら篝火があった方がいいでしょう。うちにちょうどいいものがあるわ。ちょっと待っていて下さいね」
そう言って先生は二階にだだっと消えていきどたどたと戻ってきた。
持ってきたのはキャンプの時にお馴染みのアウトドア用ガス缶二個と、カロリー●イト一個位の大きさの道具二個。
「新製品が出た時につい買ってしまったんですけれどね。小型のランタンです。衝撃に強いし風にもそこそこ強くて便利ですよ。雰囲気はガラスとマントルを使う古いタイプの方がいいんですけれどね」
新製品が出て買ったのはわかる。
でもそこでなぜ二個買ったかは僕には理解できない。
まあここでそれを追及するのも野暮だろう。
「これはなかなか画期的なランタンなんです。S●TOブランドですけれどね。壊れやすいホヤやマントルが無いんです。こうやって組み立ててセットして、ガスを出してここを押すと」
ボッ、と音がして灯がともった。
先生がガスを調節すると、白熱灯電球程度には明るくなる。
「これは本物の火を使用しています。ですから媒介に火が必要な場合でも大丈夫ですよ。蝋燭よりも遙かに風に強いですし」
「有り難うございます。お借りします。でも何故」
雅はちょっと不思議そうな顔をしている。
先生はにこっと笑って頷いた。
「担当の生徒の事を把握しておくのは先生の勤めですよ。と本当は言いたいところなんですけれどね。実は先生は田舎の神主の娘なんです。さっき大麻を見てつい懐かしくなって。
それでちょっと、余分だと思うけれど私の趣味の道具を押しつけちゃいました」
「すみません。ありがとうございます」
雅が頭を下げる。
「大した事ではないですよ。新しい道具を試すのも登山の楽しみですから。あとそれ、まだ熱いですから冷えてから折りたたんで下さいね。
あと他に必要なものはありませんか」
「大丈夫です」
「ならシャットダウン、と」
先生はパソコンを電源断して立ち上がる。
「それでは他の道具の方にいきましょうか。こっちの部屋ですよ」
という事で階段を登って二階へ。




