第44話 余分な仕事
神流先輩が用意した特殊装備は巨大な分度器と三角定規だった。
学校等で授業に使うアレだ。
何処から持ってきたのかは不明。
その二つとアルミ製脚立が取り敢えず今回の初期装備だ。
佳奈美は分度器。
雅が三角定規の長い方。
僕が脚立。
神流先輩は他に何が入っているか不明の怪しいディパックを背負っている。
6体ある像は東側から順に調べる予定だ。
そんな訳で高等部を出て道路を東へ。
最初の対象は虎門と辰門の間にある連絡道路の中間にある象だ。
五月三日午前九時二十三分到着、調査開始。
「方角を調べる前に、念の為一通り像そのものについても調べておくぞ」
という神流先輩の言葉で調査を開始する。
像そのものは普通に良くあるタイプの胸像だ。
銅というかブロンズ像。
『折田●市先生』と書いてあり、功労内容が簡単に書いてある。
「一通り触ってみたけれど、仕掛け等は特に無いようですわ」
「功労内容や名前にも特に問題はなさそうなのです」
という二人の言葉に先輩は頷く。
「よし、それでは方角を調べるか」
先輩はそう言ってポケットからオリエンテーリング用のコンパスを取り出した。
「台座そのものは完全に真西向きと思っていいようだな。では朗人、脚立を組み立てろ。あと定規と分度器を貸せ」
「はいです」
二人は定規と分度器を先輩に渡す。
先輩は台座に合わせて分度器を置いた。
「脚立はOKか」
「これで完成です」
自立するように脚を開いて支えの棒をロックするだけだ。
神流先輩はその脚立を片手で受け取って、像の真後ろに置く。
「さて、佳奈美。分度器にあわせてこんな感じで定規を持っていてくれ。それで私が右、左というからそれに合わせて角度を調整してくれ。いいな」
先輩は三角定規の直角部分を分度器の中心に合わせて立たせ、分度器の角度に合わせて左右に角度をつけたりして説明する。
「了解であります」
「朗人は動かないように脚立をしっかり持っていてくれ」
「わかりました」
「そして身長が一番高い私が上から見て、と」
そう言って先輩は脚立に登る。
そして像の肩に手をあてて頭の真上から見るような姿勢をとった。
「この方向から見るのが一番角度がわかりやすい筈だ。
という訳で佳奈美、まず二度右」
「はいな」
「うーん、もうちょっと、あと二度右かな」
「了解」
「うんうん、こんなものか。ということは真西から見て4度くらい右だな。誤差は5度くらいは出そうな感じだが」
という感じにして角度の測定は完了。
なお雅が『探検メモ』と題したノートで一部始終メモを取っている。
見ると調査時間、場所、僕らの言動等が結構細かくメモされていた。
◇◇◇
そんな感じで像六体を調べたら結構時間が経っていた。
気がつくともう午前十一時少し過ぎになっている。
「弁当を買って部室で検討しながら食べるぞ。カフェテリアの飯より弁当の方が美味い」
そう神流先輩が宣言。
なお先輩の言っている事は事実だ。
カフェテリアの飯の評判は今ひとつ。
平日の毎日昼食で食べて飽きているせいもあるかもしれないが。
そんな訳で弁当を買って理化学実験準備室へと戻る。
いつも通りガスバーナーでお茶を入れてまずは食事から。
ちなみに先輩は大盛り唐揚げ弁当。
佳奈美は大盛りスタミナ焼き肉弁当。
雅はミックスフライハンバーグ弁当だ。
僕以外全員御飯は大盛り。
おかず容器と御飯容器が別でなかなか迫力がある。
僕の海苔弁当が貧しく感じる程だ。
その大盛り弁当を食べながら、先輩がとんでもない事を言った。
「弁当もカフェ飯よりましなのだがな。この前のキャンプ飯の方が良かったなような気がする。
明日からは材料を買ってきて朗人に作らせるか。ガスバーナーも水場もあるし」
「それも楽しそうですわ」
「賛成なのです。あれならいくらでもおかわり分をつくれるのです」
雅も佳奈美も賛成してしまった。
おいおいおい。
ちょっと待ってくれ。
当事者は僕だ。
「確かにガスも水もありますけれど、鍋も皿も箸も無いですよ。買い出しできるスーパーも無いですし」
ついでに僕が面倒くさいですとは言わない。
それが一番の理由だったりするけれども。
「この前のメシと同じような感じなら学内コンビニで買えるだろう。食器も洗うのが面倒だから使い捨てのでも買っておけばいい。箸は割り箸の在庫が結構ある。鍋は私が責任もって用意しよう」
外堀を埋められてしまった。
「費用もお弁当を四人分買うよりは安く済みそうですわ」
あ、ちょっとそれはいいかも。
「この部屋には冷蔵庫もあるのです」
それはきっと薬品用だ。
「決定だな。買い出しは明日の昼でいいだろう。米と鍋は私が調達してくる」
決まってしまった。
当事者の僕が何も言うまもなかった。
「御飯を炊くのも結構時間がかかりますよ」
一応せめてもの抵抗はしておく。
「キャンプの時は所要だいたい十五分位だった。それにこの部屋にはガスバーナーが三つある。あの時ほど時間がかかるとは思えないな」
あっさり論破された。
「私もこれを機に少し料理を覚えたいです」
おいおい、そう言われると僕も簡易料理で済ませられなくなる。
そんな訳でなし崩し的に僕の余分な仕事が正式決定した。
思わずため息が出てしまう。
何か最近、僕が疲れるパターンが多いような。
気のせいならいいのだけれど。




