第25話 合宿準備は不安だらけ
そんな訳で今日は三人軽くジョギング中だ。
ちなみに僕の中学時代の体育の成績は十段階評価の七。
佳奈美はお情けで五。
学内半周もしないうちに早くも佳奈美の呼吸が怪しくなる。
「もう、限界、なの、です。はあ、はあ。インター、バル、時間、なのです」
という訳で早くもスローダウン。
「佳奈美さん、大丈夫ですか」
「……」
佳奈美、返事が出来ない。
ぜえぜえ呼吸をしている。
「これは先が長そうだな」
と言っている僕も実はそれほど余裕はない。
「では呼吸を整えがてら、のんびり柔軟でもしましょうか」
雅は余裕そうだ。
そんな訳で志半ばでランニングは中止。
グラウンドBの芝生の隅で柔軟体操へと移行する。
「まずは立ったまま。アキレス腱からいきましょう」
と雅が音頭をとって片足を前に出して後ろ足を伸ばす」
「足は平行でつま先やかかとを上げないで下さい、佳奈美さん」
「はいです」
佳奈美、おとなしく雅の指示に従う。
こっち方面はあまり得意でない自覚はあるようだ。
「はい、次は後ろ足は付けたまま前足を一歩下げて。
前足のかかとをここで着けます」
雅、妙に詳しい。
雅の指示のまま曲げて伸ばし、そして寝転んで足を曲げてと一通り。
心なしか大分身体がほぐれたような気がする。
「だいたいこのような感じでしょうか。他に追加ありますか」
「いやいや、完璧なのです。ブラボーなのです」
確かによく知っている。
運動部でもなければこんなの自然に順番に出たりはしない。
雅は体力もあるようだし。
何か運動部でもやっていたのか聞こうとして、ふと思い出した。
そう言えば神流先輩は雅のこと、閉鎖環境で育ったって言っていたな。
どういう状況かはわからない。
神流先輩が雅のことをどれ位知っているのかもわからない。
でも過去の関係を彼女に聞くのはきっとタブーだ。
何気に僕は何回かやってしまっているが。
「さて、今の体操のおかげで呼吸困難から回復したのです。高等部前まであと一走りするのです」
とりあえず佳奈美の意見に乗ることにしよう。
そんな訳でまた三人で走り出す。
勿論出来るだけゆっくりと。
それでもやはり佳奈美の体力では途中でダウン。
まだ高等部の校舎すら見えない状態で、
「整理体操、プリーズ、なの、です」
となる訳で。
まあ予測はついていたけれど。
まだまだ先は長そうだ。
◇◇◇
理化学実験準備室に戻るとテーブルの上に紙が三枚置かれていた。
タイトルは『新人歓迎合宿のご案内』とある。
読んでみると微妙に気になる部分が所々……
「この出発時間が朝三時というのは誤記じゃないですよね」
「先生に言ってくれ」
誤記では無い模様だ。
「水着着用可とはどういう状態ですか」
「先生に聞いてくれ」
先輩は把握していないと。
更に不思議というか理解不能な項目もある。
「食事の欄の、『先生の苦手な食べ物一覧表』というのは」
「書いてあるとおりだ。私も先生も料理に自信が無い。いや、料理が出来ない事に自信があるというべきだな。だからメニューは一年生で考えろ。買い出しは二十四時間営業のスーパーに途中で寄る。ガスコンロや鍋は先生が用意するそうだ」
「御飯は」
「鍋で炊け。私や先生にはやらすなよ。確実に食えない一品を作る自信がある」
了解した。
「ちなみに昨年のワンゲル新人歓迎合宿の飯は朝コンビニ飯。昼コンビニパン、夜コンビニパン、翌日朝昼カロリーメイトだったそうだ。参考にするなよ」
重々了解した。
「その辺はこの『想定される食事にシチュエーション』にあわせてこっちで計画すればいいですね」
「その通りだな。ところで聞くが、この中で料理が得意な奴はいるか」
先輩はそう言って僕らを見回す。
あ、静寂が部屋内を支配してしまった。
「ごめんなさい。作った事は一度も無いんです」
雅が告白。
「作ってもいいですけれど腕は朗人が良く知っているのですよ」
うん知っている。別名炎のアレンジャー。
悪魔合体した完成品は原材料が食品と信じられない味になるのを確認済みだ。
そんな訳で三人の視線が僕に集中する。
まあ親が共働きだったので一応作れないことはない。
「わかりましたよ。食事は一応僕が計画して実施します。
でも文句は言わないで下さいよ」
「それはどうかな」
おいおいおい。
「文句があるなら食べなければいいんです」
「文句を言いながら人一倍食べるのも先輩の特権だろう」
あ、月曜に先生が出現以来弱っていたのに。
ようやく少しだけ神流先輩が元気を取り戻したようだ。
ただ個人的に一言。
こんな元気の取り戻し方はしないでもらいたい。
大変に迷惑だ。




