第17話 仮想用語の実用性
階段を上って出口から出る。
大学の講義棟Aの東側の出口だった。
すぐ先に高等部の一般教室棟が見える。
「あれだけ色々あったような気がしたのに、たったこれしか歩いていないのです」
「実際にはただ地下道を歩いただけですのにね」
確かに。
ただ歩いて大学のパーティと会い、そして講義棟Aの地下から出てきただけ。
それなのに随分色々あったような感じだ。
「まずは理化学実験準備室で一服するぞ。気分的に結構疲れただろう」
そんな訳で元の理化学実験準備室に戻ってきた。
普通に地上を歩けば三分もかからない。
「佳奈美、紅茶を入れてくれ。ちょい濃いめに」
そう言って神流先輩は縄ばしごを引き上げ、蓋を閉じる。
「了解なのですよ」
佳奈美は例によって三角フラスコとガスバーナーでお湯を沸かし始めた。
◇◇◇
「さて、まずは用語解説からいこうか」
全員分の紅茶が入ったところで神流先輩は口を開く。
「まずヒューム値。これは元々SF系の共同制作コミュニティで作られた仮想の用語だ。正確な定義はよく知らんから私なりの定義で言うぞ。
○ 我々が現実と信じている状態がこのまま永続的に続く状態が一
○ 現実性を変化しようとする力が働くと数値は一より大きな値になる
○ 変化させられようとする状況になると一より小さな小数値になる
こんな感じだ。
完全に現実や継続性、論理性が破綻している状態が〇。それ以下は想定していない。まあ現実性が〇というのも人間には想像不可能な事態ではあるがな」
「でも現実の値としてヒューム値という言葉を使っていたのです。しかも測定器を持っているような会話もあったのです」
神流先輩は頷く
「そう。少なくともこの学内においてはヒューム値とは測定可能な現実の指標だ。測定器も存在する。何を隠そう普通に購買部で買えるんだな。ま、私は特殊事情があって使用できないが」
僕には思い当たる言葉がある。
「種別Wですか」
神流先輩はにやりと笑う。
「半分正解だな。まあ種別の話は面倒だから後にするぞ。まずはヒューム値の話だ。朗人、物理実験資材の棚の一番左、真ん中の引き出しを開けてくれ」
「それなら私が近いですわ」
雅が立ち上がろうとするのを先輩は手で制す。
「雅じゃ駄目だ。これは朗人が開ける必要がある」
何故だろう。
そう思いながら僕は言われた通りにする。
「そこに何かデジタルメーター付きの機械があるはずだ。それを出して、この部屋の隅で起動してくれ。あとその間、誰も朗人に近寄るなよ」
何か変な指示が多いが取り敢えずそれに従う。
電源というか、正面にON-OFFのスイッチがあるだけだ。
なのでスイッチをONにする。
「電源を入れました。デジタル表示が一を示しています」
「それがヒューム値測定器だ。作動原理の説明は省略。一というのは現実性の破綻が無い状態。つまりはまあ、普通の状態だな」