第16話 不明な用語
「こちらは高等部の学探。そちらの所属はどこですか」
先輩は普段と違う口調で尋ねる。
「こちらは大学のワンゲルだ」
向こうから男性の声が返ってきた。
「な、言っただろう。探索につきものの探検者だ」
今度は普段の口調で先輩はこっちに向かって言う。
だったら先にそう言ってくれ。
すぐにおっさん顔の青年に引率された五人ほどが姿を現した。
「新人歓迎期間だからもっと多くの連中が中にいると思ったんだがな。思ったより会わないもんだ」
「こっちは高等部H3から入って初めてです。そちらは」
「サークル棟DS2から。もう一組、五人パーがリング逆回りで回ってるよ」
どうもこの地下道、思った以上にメジャーな場所の模様。
僕がそう思った時だ。
「ワンゲル金井からAパーティ」
急にそんな声が聞こえた。
おっさん顔がポケットから無線機らしきものを取り出す。
「Aパーティ久保だ、どうぞ」
「Bパーティ、リングHB合流地点。
報告。現在地点においてヒューム値が急激に下降しているのを確認。現在地点でヒューム値〇・九。このままリングを進むのは危険と判断、引き返す。体育館Gで脱出予定。Aパーティも脱出願いたい」
ヒューム値とは何だ。
HBとかGとかは確か地点番号だよな。
確か地下道の図で見た気がする。
ただ説明を求めている状況ではないようだ。
「Aパーティ久保了解。こういうことかい」
おっさん顔はそう言って舌打ちする。
「ここだと一番近くて楽なのはDAだな。こっちは脱出する。そっちはどうする」
「こちらもそうしましょう。今日は単なるお試し探索ですから」
神流先輩の言葉におっさん顔は頷く。
「それが賢明だな。ちくしょう。フル装備してくりゃ良かったんだが。で、隊列は一緒にするか」
「そうですね。出来れば後を頼みます。私はこれでも種別Wですので」
この種別Wという単語も僕にはわからない。
でもおっさん顔には通じたようだ。
「心強いな。なら俺が殿に行くからトップ頼む」
おっさん顔はそう言ったあと、自分のパーティに向きなおる。
「この高等部のパーティの後について行って脱出する。俺が一番最後に回る。あとは今までと同じ順番でついていけ」
そんな訳で有無を言わさず脱出行になってしまう。
「それじゃ説明は後だ。行くぞ」
先輩はこっちにはいつもの口調でそう言って歩き出す。
佳奈美も雅も無言でついていく。
僕もだ。
さっきまでより明らかに早足で、十字路をそのまま直進方向へ。
しばらく歩いて分岐を右へ。
「低くなっているから注意」
高等部のところと同じように天井が低い部分を抜けて突き当たりにぼんやりとした明かりが見えた。
近づくと扉についているガラス窓だとわかる。
神流先輩はその扉を普通に開いた。
「ここからは校舎だから安心して大丈夫です」
という訳で扉から入って上方向への階段の踊り場のような場所に出た。
大学部の連中も続いて入ってくる。
いずれも高校出たてという感じだ。
最後にあのおっさん顔が出てきた。
「セーフ、っていったところか」
「ここのヒューム値はまだ誤差範囲内ですし大丈夫でしょう」
「そうだな。ところで何か原因に心当たりはないか」
「どっちかというと占術部の範囲ですね、私はちょっと」
おっさん顔はうんうん頷く。
「まあそうだよな。でも先頭ありがとうな」
「こちらこそ。殿の方が精神的に疲れますから」
「先頭も嫌なもんだぜ、間違いなく」
おっさん顔はそう言って肩をすくめて見せて。
そして自分の隊員のほうへ向き直った。
「一度部室へ戻るぞ。地上から探査する。これはお試しじゃ無いからな」
そう言って他を引き連れて階段を上っていった。
「さあ、こっちも出るぞ。色々説明も聞きたいだろう」
元の口調に戻った神流先輩に僕を含め三人とも頷く。