第11話 Walk This Way!
二人はハイテンションのままホームセンターでほぼ閉店までお買い物。
いい香りのシャンプーとか厳選したヘルメットとか、可愛い色が無くて大変だったレインコートとか。
もはや日用品を買いに来たのか探検用具を買いに来たのかわからなくなっている。
二人の荷物が多すぎて僕も少し持ってやっている状態だ。
神流先輩は手ぶらだけれど。
「折角だから飯を食って帰るぞ。この機会だからとっておきの店を予約した。運良くちょうど三十分後に予約できた。ちょい高めの二千二百円程度だが、大丈夫だろ?」
「何とか」
「余裕なのですよ」
「大丈夫ですわ」
僕も買い物の様子を見て良くわかった。
佳奈美も雅も僕より大分お金に余裕がありそうだ。
「では行くぞ。時間が惜しい」
あ、まさかとは思うが、ひょっとして……
「三十分後に予約したという事は、まさか三十分歩くという事でしょうか」
「聡明だなワトソン君。グー●ル君に言わせると二十七分少々かかる模様だ」
おいおいおいおい。
「もっと近くにも色々お店が見えているじゃないですか」
ファミレスもラーメン屋も牛丼屋も見える範囲にある。
「折角の機会だから特別な店で祝いたいじゃないか。そう思わないか」
「賛成なのです」
「いいですわね」
僕に味方はいない。
そんな訳で否応なしに歩き始める。
さっきと同じ殺風景な国道をひたすら北に。
「ちなみに距離はどれ位ですか」
「大した事は無い。たった二・二キロ」
さっきとあわせて三キロか。
今日はよく眠れそうだ。
「その値段だと今日は前菜とかのアラカルトという感じですか」
どうも雅の発想は微妙に通常の常識と違う。
そういう世界で育ったのだろうか。
「安いイタリアンとかなのですかねえ」
サ●ゼリアはさっき通り過ぎた。
「まあ取っておきの店だな。今日のメンバーにはちょうどいい」
普通に考えると洋食屋とかファミレスなのだけれど、多分違う。
ちょうどいい程度の店を何店舗か通り過ぎている。
これは期待していいのか、受け狙いか。
二千二百円で受け狙いだと僕の財布が悲しすぎる。
うん、悲しい現実を考えるのはやめよう。
「そう言えば雅の実家はどんなところだったんだ」
何の気なしにそんな話題を振ってみる。
ふと、何か雰囲気が変わった。
雅が何やら真剣に考えている様子。
「うーん、うちは田舎ですわ。こんなにお店があるような場所ではありませんでした。だからここはなかなか楽しいですわ」
あれ、今ひょっとしてはぐらかした?
何か言いたくない事情でもあるのだろうか。
確かに雅は色々とまあ変わっているけれど。
それにしても今の雰囲気はちょっと変だった。
「うちはここよりはちょっと店が多いのですね。うちの家から朗人の家まで歩くと五分程度なのです。ここへ進学を決めるために何度も足を運んだのですよ」
うん、佳奈美。
内容はナイスじゃないけれどナイスだ。
うまく話題を変えてくれた。
「佳奈美さんと朗人さんは幼馴染みというものなのでしょうか」
「中学からなのです。中一から中三まで同じクラスなのですよ」
「それってクラスがいくつもあるのでしょうか」
「五クラスあったのですが常に同じクラスだったのです。課外活動も化学実験部で同じなのです」
化学実験部のバルカン半島、これが佳奈美の二つ名だ。
だいたいこの名前で彼女が学校でどう扱われていたか察して欲しい。
バルカン半島がどういう意味かわからない人は世界史をもっと勉強するように。
さて。
「お店が見えてきたぞ」
神流先輩の言葉で僕は前方に視線をやる。
瞬間、僕は全てを察してしまった。
こういう事か……