8.とりあえず風呂にでも入って落ち着きたかった
「申し訳ありません、マスター。実際問題、ここが超高難易度ダンジョンとして知れ渡ってしまったのは私の非です。廃棄処分でもなんなりと……」
「いや、もう広まった事は仕方ないし……気にしない、よ?」
「さすがマスター……! 何と慈悲深い!」
「慈悲深くはないけど……」
ほんとうはものすごく気にしているけど、それ以上にばれてからのレイアの落ち込みようが半端なかった。
いっそ「てへっ」の勢いをそのまま維持してほしいくらいだ。
けれど、気にしないという僕の言葉を聞いてパァと表情を明るくするレイア。
フェンリルまで飼い慣らしているとは誰が思うだろう。
「……今日は何だか疲れたし、風呂でも入って寝ようかな」
「!」
僕の言葉を聞いて、何故かがたりと勢いよく立ち上がるレイア。
この短い期間でも何となく彼女の言いたい事は分かった。
「風呂は一人で入るよ?」
「……私はただマスターがお風呂に入るというので準備のために立ち上がっただけなのですが……? マスターはそういう想像をされていたのですか?」
「なっ!? ち、違う!」
まさかそういう風に言ってくるとは思わなかった。
いたずらっぽい笑みを浮かべているのは、レイアがそう言われる事を見越していたからだろう。
何という策士……!
「では……お風呂はこの階層を上がった角になりますので」
「……分かった」
レイアにそう言われて、僕は一人そちらへと向かう。
本当に、レイアはどうしてしまったのだろう。
魔導人形の彼女がこの五百年をかけて成長したという事だろうか。
それならば確かにすごい事だ。
成長の仕方に問題はあるけれど……。
僕は一つ上の階層に向かう。
途中、何体かのゴーレムとすれ違う。
ズンッ、ズンッと音を立てて歩くゴーレムだが、僕が前にくるとピタリと動きを止めて道を開けてくれる。
僕が作った記憶はないので、レイアが管理しているのだろう。
(僕より強いんじゃないの……?)
そんな疑問すら出てくる。
レイアは元々僕の仕事の手伝いをしてもらうために作り出した魔導人形だ。
最低限の意志疎通ができる程度が最初のレイアだった。
それがあんなに成長して……。
(感慨深くはない、かな)
むしろ色々と厄介の種を撒いてくれていた。
それでも、五百年という長い時間僕を守ってくれた事には感謝している。
レイアの言っていた風呂は角のところにあった。
何故か暖簾が下げてあって、地下に木造の部屋が出来上がっている。
それなりの広さのある更衣室だった。
こういうところが、彼女の言う掃除している場所の一つなのかもしれない。
僕は早々に服を脱いで、浴室へと向かう。
(あれ、そう言えばレイアは準備するって言っていたような……)
「いらっしゃいませ、マスター」
がらりと浴室のドアを開けると同時に、レイアのそんな迎え入れる声が聞こえた。
思わずずるりとこけそうになる。
「なっ!? ひ、一人で入ると言ったじゃないか!? それに君は一緒にも来ないと……!」
「はて……私は準備をすると言って立ち上がっただけですし、マスターが一緒に入る想像をしたのですかと聞いただけですよ。それに一人で入ってきているじゃないですか、浴室には」
「な、ななな……」
「それに、私がいる浴室にマスターが入ってきただけですよ」とにっこりと言うレイア。
これはあれだ、うん。
もう僕よりも色んな意味で強いと思う。
「ふふっ、お背中流しますね」
「……もう好きにしていいよ」
僕も一々驚くのは疲れたので、そのままレイアを受け入れる事にした。
レイアはメイド服を着たままだが僕は全裸という何とも言えない状況だったが、人間らしくなったとはいえレイアは魔導人形。
向こうだって気にしないはずだ。
「それではまず……まず……っ」
「今さら恥ずかしがるのはやめて!?」
改めて向き合ったレイアは照れたように俯いてしまった。
こんな態度をされると僕の方も恥ずかしくなってくる。
だが、レイアは何かを決意したように再び僕の方に向き直る。
「だ、大丈夫です。しっかりと練習しましたから……!」
「練習!? 何で!?」
「管理者達の手入れをするのも私の務めなのです……! 五百年の成果を今!」
「今はいいよ!? い、いや……僕は人間だから……! 管理者ってアルフレッドさんとかフェンリルとかでしょ……!? そのブラシとか僕には合わないから! あ、や、やめてー!」
「大丈夫です……全て私に任せてください……!」
レイアも動揺しているのか、あまり話を聞いてくれなかった。
結局レイアが落ち着くまで裸で逃げ回る事になるという悲惨な結果を迎えたのだった。
ヤンデレと男の娘タグを追加するか悩んで趣味に走るならばと追加しました。