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70.威圧感

《カミラル》の町にやってきた僕は、いつものように冒険者ギルドの方へと向かう。

 冒険者として活動を始めて一月とちょっと――この生活にも慣れてきたところだ。


「マスター、今日はどんなお仕事を受けるつもりなんですか?」


 そんな僕の隣にべったりとくっついているのはレイアだった。

 最初の頃は待っているのがメイドの仕事、みたいなことを言っていたような気もするのだけれど、今は必ずと言っていいほどついてくる。

 隠れて仕事にもついてきているのは知っているけれど、もう突っ込むのもしない。

 むしろ、僕がパーティを組まなかったら基本的にはレイアと一緒に行動しているくらいだ。

 そこにプラスで、ヤーサンやポチがやってくる形になる。

 さすがにヤーサンまでは許容できるけれど、ポチは正直大きさがあまり許容できない。

 この辺りでは最強クラスで知られていた《灰狼》より大きいのだから。

 まあ、すでにポチは《魔物使い》としても名を知られ始めている僕のペット、みたいな話題が広まっているので連れていても問題ないのだけれど。

 いや、正直問題がないわけではないのだけれど……。


「うーん、レイアの素材のこともあるしね。それなりに遠出してもいいかなとは思ってるんだけど」

「ピクニックですね?」

「仕事だよ! どこからピクニックって言葉が出てくるのさ」

仕事ピクニックでは?」

「そんな読み方聞いたことないよ……レイアの素材を探しにいくんだからね?」

「もちろん感謝しています、マスター。どんな願いでも一つだけ聞いて差し上げます」

「いや、別に願いとかはないけど」

「二つだけ聞いて差し上げます」

「増えてる! 増えてるから!」

「ミッツダケキイテサシアゲマス」

「何でまだ増えるの!?」


 本来ならばありがたい発言のはずなのに、レイアが言うと怖く感じられる。

 願いを聞く、と言いつつも何か言えば変なふうに取られそうな気がした。


「ナニでも言うこと聞きます、よ?」

「もう別の意味だね!?」


 今日はいつになく食い下がってくるレイア。

 僕の願いについて、そこまで聞いておきたいのだろうか。

 願い――そう言われても、別にほしいものがあるわけじゃない。

 前から言っている通り、僕が望むのはこうして毎日冒険者として過ごしながら、平穏に暮らすことだ。

 もちろん、《黒印魔導会》のような組織は放ってはおけないけれど。

 平穏な世界なんて、あまりに大きすぎる夢をレイアは以前支えてくれるとは言っていた。

 そこまで大層なことを望むつもりはないけれど、身の回りの平穏くらいは――望んでも罰は当たらないはずだ。

 そうこうしているうちに僕とレイアは、冒険者ギルドの方へとたどり着く。


「あ、フェン!」


 ギルドに到着早々、僕の名前――偽名だけれど、それを呼んだのは一人の少女だった。


「フィナ、久しぶりだね」


 久しぶりというのも、僕とフィナが最後に出会ったのは……あまり思い出したくないけれど、僕が女装していた時のことだ。

 そのときはもう一人、ヘイズという冒険者と一緒にいたけれど、今はフィナ一人のようだ。

 フィナはこの辺りでは顔の利く冒険者で、色々な人とパーティを組んでいる。

 僕もよくパーティを組ませてもらっていたわけだけど、こうして会うのは久しぶりだった。


「今日はドレスじゃないのね」

「そ、その話はやめてほしいなぁ……」


 フィナもこうして軽口のような冗談を言ってくるくらいの関係にはなっている。

 レイアもフィナとパーティを組むことについては許容してくれている――


「……」


 物凄く殺気のようなものを感じるけれど、許容してくれているはずだ。


(あれ……してくれるよね?)


 思わず疑問符を浮かべてしまう。

 久しぶりとはいえ、レイアとフィナは何度か会話もしている。

 僕とフィナが一緒に仕事をしただってある。

 そのたびにレイアがどんな顔をしていたかと言えば――


(……やばい、いつもこんな感じだったかも)


 正直、レイアは何をトリガーにして暴走するか分からない。

 フィナと僕のやり取りを見てか、ピタリとレイアは僕に張り付くようにして、


「……フィナさん。今日はお一人で依頼を受けるんですか?」

「んー、フェンにもこうして会えたわけだし、一緒に何か行ってもいいと思うけど、どう?」

「あ、えーっと……」

「……どうぞ、マスター。行きたければ行ってしまってもいいんですよ。私はここで待っていますので」


 物凄く威圧を感じさせる発言のレイア。

 けれど、冒険者の初心者としての僕にとってはフィナの存在はありがたい。

 レイアのプレッシャーに耐えてフィナと行動するのが、今の僕にとっての最善の行動なのだ。


「えっと、それじゃあ素材集めとかしたいんだけど、付き合ってもらってもいいかな?」

「ええ、いいわよ」

「は……? そうですか」


 レイアが小声でそんな風に言う。

「はあ……?」とか「はい……?」とかでもなく「は……?」という辺りとても強い当たりを感じるけれど、それは主に僕に向けられたものだ。


「……あはは」

「どうかしたの?」

「い、いや、何でもないよ」


 苦笑いを浮かべながら、フィナと共に依頼を受けることにした僕。

 レイアから向けられる鋭い視線を尻目に、レイアの素材集めに向かうことにしたのだった。

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