67.これからのこと
結局、エルクルフが負けを認めたわけではないけれど、魔導要塞は取り返す事に成功した。
いつでも僕の事を狙っている――そう言っていたけれど、今はリビングでレイアの作ったケーキを食べている。
僕のために作ったから、とレイアが本気で嫌そうにしていたけれど、何とか説得して今に至る。
レイアの身体を治すために、僕は工房にいた。
レイアの手足の素体はグリムロールさんからもらったという素材からもう一度作り上げた。
すでに加工済みのため、何の素材かまでは分からないけれど、高価な魔石と強い魔物の素材であることは分かる。
(……まあ、吸血鬼のグリムロールさんならどんな素材持っていても驚かないけどさ)
レイアの失った手足を治すのにも、工房であればそれほど時間はかからない。
裸で横になるレイアがそわそわとしながら僕の方を見る。
「いや、そんな期待するような目で見られても……」
「裸ワイシャツの方が良かったですか?」
「治すのに服装は関係ないよ!」
「やはりバリエーションというのは大事だと思うんです。全裸ではなく下着……あえての水着、とか」
服装は関係ない、と言い切ったばかりなのにレイアはそのまま話を続ける。
僕は小さくため息をつきつつも、レイアの身体を治し始める。
アルフレッドさんの攻撃によって受けた損傷は激しいけれど、すでに応急処置の段階でかなり補強してある。
普通に動く分には問題ないレベルだ。
「服の話は置いておいて……そろそろ落ち着いてきたし聞いておきたいことがあるんだけど」
「はい、マスターの質問でしたら何でも受け付けますよ。スリーサイズですか?」
「――王都の仕事でもさ、《黒印魔導会》が襲ってくるってレイアは知ってたの?」
僕の問いかけに、レイアは少し驚いたような表情を見せる。
けれど、すぐに身体を起こして答えた。
「はい、知っていました」
「そっか」
「……それだけ、ですか?」
「ん、それだけって?」
「私は黒印魔導会が関わっていると知っていて仕事を受けました――そう答えたんです。マスターが聞きたいことは、それだけなのですか?」
「んー、まあそうだね。僕が知りたかったのは、レイアが黒印魔導会が関わっている仕事を受けられるっていうことかな」
「……? それはどういう――」
「一先ず腕から治すから、横になって」
僕がそう促すと、レイアは少し怪訝そうな表情をしながらも横になる。
二度、こうしてレイアを傷つけられている。
《カミラル》の町の方だって襲われたこともあった。
そして、今回の王都の件――ようやく落ち着いて考えられる時間ができた。
《白竜》の娘であるエルクルフの母がどうしているか分からない。
けれど、少なくとも白竜の子供は生きているという事実がある。
僕としては、黒印魔導会のやっている事は正直実現不可能な部類のものだと思っていた。
他人に危害を加えて実験を行おうとしているという事実も、あまり放っておけるものではない。
仮に《黒竜》を復活させることが目的だとして、その黒竜で何をするか――想像するのは難しくはない。
「……マスター?」
「あ、ごめん。少し考え事してて」
「黒印魔導会の事ですか?」
「まあ、そうだね。レイアが関連する仕事を受けられるんだったら、そろそろ何か対策を講じた方がいいかなって思って」
「! それはつまり、マスター自ら動かれるということですか……!?」
僕の発言を聞いてか、レイアは目を輝かせてそんな事を聞いてくる。
「こう何度か関わってくるとね。黒印魔導会の魔導師の実力は今の時代だと高い部類みたいだし……」
「マスターの望む世界に黒印魔導会は不要……そういう事ですね!」
「うーん? 世界っていうには大きすぎる話な気もするけど……。少なくとも良い組織ではないのは確かだから」
「それは間違いない事ですね。マスターが望むのであれば、私は引き続き黒印魔導会に関わる仕事を受けてきます」
「うん、ただ今度から詳細はしっかり話してね」
「分かりましたっ。必要な事は全てお話し致します」
たぶん、僕が言わなくてもレイアは黒印魔導会に関わる仕事を持ってくる気はする。
少なくとも、レイアにとって黒印魔導会は邪魔なのかもしれない。
レイアが僕の望む事を聞いてくれるように、僕もレイア望む事はしてあげたいと思っている。
利害の一致というわけではないけれど。
「ふふっ、明日にでも早速お仕事探してきますから」
「いや、そんなに急がなくてもいいよ。まだ戻ってきたばかりだし、町の方でも仕事を受けないといけないからさ」
「はいっ、その間にいっぱい探しておきます!」
「そんなに黒印魔導会に関わる仕事はないと思うけど……」
「あぶり出します」
「だから怖いって!?」
レイアなら本当にやりかねない――相変わらずそう思わせる表情ばかり浮かべるのだった。




