64.管理者《エルクルフ》
「くふふっ、待ちくたびれたぞ、フエン・アステーナ!」
ビシッと少女が僕の方を指さしながらそんなことを言う。
声でも何となく想像していたけれど、やはり見た目は相当幼い。
少女というよりは幼女と言ってもいいレベルだった。
見た目こそあれだが、目の前に吹き飛ばされてきたアルフレッドさんは幼女――エルクルフにやられたことになる。
彼女は人の姿をした《ドラゴン》なのだ。
「くふふふっ、驚いているな! このわしを差し置いて好き勝手やってくれたようだが、もうそうはいかん!」
「好き勝手……?」
「その通り! わしがこの《魔導要塞アステーナ》に来た理由は――ん?」
にやりと笑いながら僕の方を見るが、何かに気付いたように周囲を見渡す。
「レイアがおらんではないか!」
「! あれ、本当だ」
いつの間に姿を消したのだろう。
僕も周囲を確認するが、レイアの気配はない。
「くふふっ、レイアの奴、ようやくわしの恐ろしさが――ぶべぇ!?」
エルクルフがおよそ幼女の上げていいものではない声と共に吹き飛んでいく。
そこにいたのは、エルクルフにドロップキックをかましたレイアだった。
「誰があなたを恐ろしいと思いますか。先手必勝……一先ず出会ったらビンタの一つでもかましてやろうと思っていたんです」
「いや、ビンタってレベルじゃないよね?!」
もはやビンタのレベルは軽く超えている。
僕も風の魔法を纏って、レイアのところへと跳ぶ。
レイアは満足げな表情で吹き飛んだエルクルフを見ていた。
「ふぅ、一先ずはやりたいことができました」
「い、いくらなんでもやりすぎだよ。相手はまだ子供なのに」
「マスター、以前にも言いましたがエルクルフは人の姿では幼い少女ですが、騙されてはいけません。あれはドラゴンなんです。これくらいの攻撃、エルクルフには効いていないと思いますよ」
レイアの言う通り、吹き飛んだエルクルフはゆっくりと立ち上がる。
あれほどの攻撃を受けても立てるということはやはりドラゴン――
「ぐ、げほっ……お、おのれぇ……! レ、レイア貴様……!」
(あれ、物凄く効いてる!?)
もはや満身創痍というレベルで、足は震えたまま腹部を押さえてエルクルフは立ち上がる。
それでも気丈にレイアの方を指差すと、
「ぜ、全然効いてないからな……っ!」
「ほら、あの通りですよ」
「いや、どう見てもダメージが大きいと思うんだけど……」
「全然効いてない!」
僕の言葉も否定するようにエルクルフが叫ぶ。
そういうことにしたいのか、ドラゴンのプライドというものなのだろうか。
それに対してレイアはにやりと笑い、僕が作った義手を力任せに取り外す。
「ふふっ、そう言うと思っていましたよ。あなたは……調教――戦い甲斐がありますね」
「今調教って言った?」
「ソンナワケナイジャナイデスカー」
いつもなら怖いレイアの発言が棒読みになっている。
外した義手の先から作り出したのは魔力の刃――ではなく鞭状のものだった。
ピシィン、とレイアが魔力の鞭で地面を叩く。
すると、エルクルフの身体がびくりと震えた。
「ひっ!」
「あなたはこんな攻撃も効かないですよね?」
「あ、当たり前だ!」
(……どういう状況なの、これ)
魔導要塞を取り返すために乗り込んだわけだけど、戦う前からレイアの方が圧倒的に優勢だった。
……というか、傍から見るとレイアの方が主導権を完全に握っている。
ただ、それに対してエルクルフが強がっているような状態だった。
これだとレイアが一方的にエルクルフをいじめているような状況に見える。
さすがに少し可哀そうに見えた。
「レ、レイア……そのくらいにしておいた方がいいと思うんだけど」
「何を言っているのですか、マスター。このトカゲが売ってきた喧嘩なんですよ。マスターも売られた喧嘩は買わないと」
「そうだ! わしが喧嘩を売ったんだぞ」
「え、僕一応エルクルフの方を擁護する側だったんだけど!?」
「舐めるな! 人間に守られるような生き方は――どわっ!?」
レイアがすかさず魔力の鞭でエルクルフを攻撃する。
エルクルフはそれを咄嗟にかわした。
エルクルフの左右にヤーサンとポチも展開する。
幼女一人に対してこの状況はよくないのでは――そう思っていたときだった。
「くふふっ、人間……わしがまだ一切本気を出していないということを理解していないようだな?」
「っ! まさかもうドラゴンの姿に……!?」
「え、どういうこと?」
「エルクルフはドM――ではなく戦う前にある程度ダメージを受け入れることを許容するんです。だから、先にダメージを与えて後の戦いを有利にするつもりだったのですが……」
「ドMって言った!? というか、その情報先に教えてよ!」
まさかの幼女姿はサービスタイムだったらしい。
つまり、今の状況でダメージを与えるのが正解だったというのだ。
正直見た目的にはすごくやりにくかったけど。
「くふふっ、後悔するがいい……フエン・アステーナ。わしをもっと殴っておけばよかったと思いながら死ぬのだ!」
カッと幼女姿のエルクルフが白い光に包まれる。
バサリと広がるのは、白い羽。
バシン、と地面を殴る尻尾。
鋭い牙と爪が見え、白い鱗の竜がそこにはいた。いたのだが――
「くふふっ! これがわしの真の姿よ!」
(え、ちっちゃ……!?)
それは、幼女の姿よりもさらに小さな文字通りのトカゲのような大きさのドラゴンだった。
11/15に書籍版第一巻が発売されます。
詳細は活動報告などにも記載させていただきます!
また、一部では書影なども公開されているので後ほど公開する予定です。
そちらも宜しくお願い致します!




