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59.魔導要塞を取り戻すために

「マスター、ダメです。そこは……」

「ダメじゃないよ、今急いでるから」

「そ、そんな激しく……っ」

「いや、レイアは痛みとか感じないよね?」

「せっかくなのでマスターにも雰囲気を楽しんでもらおうと思いまして」

「何の雰囲気を!?」

「ふふっ、分かっているでしょうに」

「まったく分からないけど……」


 不敵に笑みを浮かべるレイアに突っ込みを入れつつ、僕はレイアを治していた。

 失われた腕と足を代替素材によって構成する。

 ゴーレムを構成する術式と同じく、土や石で義手と義足を作り出した。

 即席ではあるけれど、レイアならばこれで十分に動けるようになる。

 元々、手足がなくても行動はできるはずなのだけれど、レイアは先ほどからあまり動こうとしない。

 仕方なく僕がレイアを支えたりしているわけだけれど。


「しかし、さすがマスターですね。これほどの工房をすぐに作り出すとは」

「大したことじゃないよ。即席の結界みたいなものだから、さっきみたいな攻撃を受ければすぐに壊れるだろうし」


 僕とレイアがいるのは変わらず森の中だ。

 僕が土魔法で作り出した即席の工房――そこでレイアの修復を行っていた。

《核》の部分は傷ついていないけれど、アルフレッドさんの一撃を受けたレイアの傷は、手足だけでなく身体にも大きく傷を残している。

 自宅の方に戻ればすぐにでもレイアを完璧に治すところだけど、今は簡易的な修復だけだ。


「大きな傷になってしまいましたね……」


 一糸まとわぬ姿のレイアが、腹部にできた傷を撫でながら少し寂しげな表情でそう呟く。

 正直、そういうところはあまり気にしないと思っていたけれど、レイアは女の子らしい部分もある。

 ひょっとしたら、身体に傷が残るということを気にしているのかもしれない。


「レイア――」

「本当ならマスターに傷モノにしてもらう予定でしたのに……あ、マスターどうかしましたか?」

「……ううん、何でもない」


 心配して損したよ、とは思わなくもない。

 それよりも大きな心配ごとは、目の前にある。

《魔導要塞アステーナ》が乗っ取られた――しかも、管理者の一体であるドラゴンによって。

 僕は改めてレイアからもらった《魔導要塞アステーナ》の設計図を確認する。


「この規模が乗っ取られたってことだよね……」

「まあ、あのドラゴンのいる位置が良かったとも言えますね」

「その、ドラゴンはどこにいるの?」

「ここです」


 レイアが指差したのは、魔導要塞の詳細について書かれた場所よりも少し上の部分――空だった。


「ん、どこ?」

「ここなんです。雲の上――魔導要塞で唯一、空中に配置されているわけですね」

「ええ……空中って……っ!」

「先ほどの攻撃はその空中にある《城》からのもののようですが、どうやら乗っ取る際に地上に降りてきたようですね。だから、魔導要塞から攻撃を仕掛けてきたように見えたんです」


 レイアの言うことが本当なら――いや、実際本当なのだろう。

 目に見えるところにあるのではなく、僕の暮らしていた自宅の遥か上空に管理者としていたことになる。

 レイアの言い方からすると、まともに管理者をしていたわけではないようだけれど。


「でも、僕が目覚める前とか、目覚めた後でも何もしてこなかったのに急になんで……?」

「前にもお話しさせていただきましたが、全ての管理者がマスターに従っているわけではありません。これは……私の力不足であるとしか言えませんが」

「うん、それはいいんだけど、それならいつでも襲ってこれたはずだよね?」

「私が魔導要塞を運営する上で、大半の力を魔導要塞の制御に使っています。その中でもかなりの規模を占めるのが、あのドラゴンの力を抑えておくことになります」

「まさか、封印術の類を使っていたってこと!? レイア、そんな魔法も使えたの?」

「それはもちろん、マスターのために使えるようになりました。仮に古の《魔神》が復活したとしても、封印できるように厳重なものを」

「そ、そうなんだ……」


 死霊術の時もそうだけれど、レイアはとにかく色々な魔法を重複して発動しているらしい。

 ただ、アルフレッドさんから受けた一撃で消耗したレイアは、魔導要塞で発動していたいくつかの魔法が制御不能になってしまった、ということだった。

 正直、レイアが複数魔法を発動していると知った時点で無理をさせるべきではなかった。

 その点については、僕のミスだ。

 今必要なことは、どうにしかして魔導要塞を取り返さなければならないということになる。


(放っておいたら大変なことになるし……)

「さて、放っておいたら世界が滅ぶかもしれないので、どうにか魔導要塞を取り返す方向でいきましょうか」

「あまり考えたくなかったことを平気で言うね――というか、服はちゃんと着よう?」


 レイアは何故かシャツを一枚羽織るだけで、下着も何も身に着けない状態で僕と話していた。

 気にはしていたけれど、真面目な話をしていたので突っ込みが遅れた。

 レイアがちらりとシャツの胸元を掴むと、


「この方が捗ると思いまして」

「何も捗らないよ! むしろ逆にそっちの方に視線がいくからっ」

「! マスターもようやく私の身体に興味が出てきたのですね……っ! 見慣れた、と言われた日からずっと悩んでおりましたが、《裸ワイシャツ》がマスターの趣味なのですね!」

「全然違うよ!? 勘違いされるようなこと言ってないで、早く服着て準備してほしいんだけど」

「仕方ありませんね、分かりました。マスター、では着替えるので……」

「うん、外に出てるよ――」

「いえ、しっかり見ていてもらえますか?」

「そんな誘い方する人初めて見たよ!」


 着替えるので出て行ってほしいではなく、着替えるので見ていてほしいとはどういうことなのだろう。

 ただ、レイアは一度そういうことを言い始めると中々行動に移してくれない。

 僕が外に出ている、と念を押して言うと唇を尖らせて少し不機嫌そうな表情をしていた。


「……見られて嬉しいって、どこで学んだんだろう」

「見られて嬉しいとは言っていませんが、マスターはそういう趣向に詳しいのですね」

「いや、そういうわけじゃなくて――って、何で逆に脱いでるのさ!」


 せっかく外に出ていたのに、何故か僕の言葉に反応して出てきたレイアはシャツを脱いでいた。

 手足の自由が効かないから、とレイアが言うので、結局僕が着替える手伝いをすることになったのだった。

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