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45.王都での仕事

 王都――《クラスティリア》。

 五百年前には存在していなかった都に僕はやってきていた。

 おそらく、五百年以上その歴史が続いている国は少ないだろう。

 いつか見てみたい気もするけれど。


「すごい、綺麗な街並みだ……」


 僕は思わずそう呟く。

 王都を一望できるという巨大な時計塔――《ルフェッタ時計塔》の最上部からその景色を見ていた。


「ふふっ、マスターはあの森付近と近くの町にしか行ってないですから、五百年前とほとんど変わっていない思っていらしたようで」

「うん……まあ森自体も地殻の変動の影響か、知らない山とかあったけどさ。なんていうか、都は洗練されたね」


 知らないところではあるけれど、似たような広さの都は知っている。

 五百年前に仕えた王国――ただ、地面まで全て石造りのブロックで整地されていたようなことはなく、家自体も見た目からして綺麗と言えるものは少なかった。

 それが、今の時代では綺麗にすることが当たり前のようだ。

 過ごしやすさというのを追及している――それがよく伝わってきた。


「人はだんだんと完璧を追い求めるものです。その気持ちは私にも分かります。マスターのために用意したあの魔導要塞……最初こそ小さなフロアしかなかったですが、今はあんなに広く快適になりました」

「快適……?」

「何かおかしなところが?」

「あ、いや……お風呂とか快適だよね!」

「さすがマスター、その通りです。あの要塞は私の私によるマスターのための要塞なのですから。もしマスターがあの要塞を手放すことになれば……」

「そ、そんなことは言わないって。最初に言ったじゃないか」

「そうですね、私としたことが……マスターを試すようなことを。申し訳ございません」


 管理者が存在しなければ、余裕で管理放棄をしている物件だったとはもう言いきれない。

 実際、安全という面ではあそこ以上の場所は存在しないのかもしれない。

 僕のいるところにまでたどり着くのに何ヵ月かかるか分からないし、少なくとも僕と同じ《七星魔導》級の魔導師でも、《魔導要塞アステーナ》を攻略することは難しいかもしれない。


「いやぁ、遅れて申し訳ない」


 僕とレイアの背後から、一人の男性がやってくる。

 眼鏡をかけて少しやせこけた、どことなく暗い表情をしているのに、何故だか話し方は明るい雰囲気の人だった。


「えっと、あなたが依頼者の……?」

「ああ、ハイ。バルトメア・レシューと申します」


 レイアの受けた依頼――その依頼者と落ち会う約束まで、レイアはつけていたのだ。

 どこまでも用意周到というか、僕の今後の仕事の管理にまで手を回してきそうな雰囲気を感じてしまう。


「えー、そちらが冒険者のフェンさんですか?」

「あ、はい!」

「あー、なるほど。特徴とも一致しますね」

「特徴……?」

「女の子みたいでかわいいメイドを連れているとの記載がありまして」

「……」


 僕は無言でレイアの方を見る。

 レイアはそのタイミングで首を綺麗に動かした。

 まさかの反対を向くのではなく、僕の方を向いてウインクを決めてくる。

 どうみてもレイアが書いた特徴であった。


「完璧に特徴を捉えていますね!」

「あのね……まあ、いいや。それで、バルトメアさん。護衛というのは会場内全員の、ということでいいですか?」

「ハイ、そうですね。各所から豪族貴族がやってくるパーティーですので」

「結構大きなパーティーってことですか?」

「そうですね、著名な音楽団も呼んでのお祝いですので」

「お祝い?」

「ああ、パーティーの内容についてはお話されてなかったん――おっと、失礼」


 バルトメアさんは何か言いかけたところで、口をつぐむ。

 そのまま懐から紙一枚を取り出すと、僕にそれを手渡した。


「具体的な内容はそちらに記載してありますので、確認してください。くれぐれも、その紙は落とさぬよう……」

「はい、わかりました」

「では、パーティーは明日になりますので……よろしくお願いします」


 バルトメアさんはそう言って頭を下げて去っていく。

 僕は渡された紙を確認しようとするが、


「マスター、それは重要書類です。念のため、取ってある宿に行ってからにしましょう」

「誰かに見られてるわけじゃないから大丈夫だと思うけど……」

「さすがマスター、警戒は怠らないところに惚れてしまいそう――はっ、もう惚れていたのでどう表現すればよいのでしょう!?」

「わ、分かったから。帰ってから見るよ。それで、宿はどこに?」

「あそこのカラフルな場所、分かりますか?」

「うん、気になってたけどあそこやけに派手だよね」


 レイアの指差した先――町並みの景観に対して非常に派手な場所があった。

 あれはあれで風情があると思っていたけれど。


「そこの《ラブラブワンナイト》という宿を取りました」

「うん――うん? 何その名前!?」


 いかにもというか、明らかに怪しい雰囲気の宿の名前に困惑するが、レイアは地図を僕に渡すと、


「私は都を観光中のグリムロールさんを回収してくるので、マスターは先に行ってチェックインしていてください」

「え、え? 本当にここなの――ってレイア!?」


 気が付けば、レイアの姿は僕の前から消えていた。階段からではなく、時計塔から飛び降りたらしい。

 僕はレイアに渡された地図を見ながら、呆然とカラフルな景観の方を眺めることになった。


   ***


 コツコツと足音を立てながら、人通りの少ない道をバルトメアが歩く。

 その表情は先ほどのへらへらした笑顔とは違い、無表情に何かを見据えていた。

 ――そんなバルトメアの前に、メイド服の少女が立つ。


「あなたが《協会》から派遣された魔導師ですか。随分と口が軽いようで」

「ははっ……申し訳ないですね。どこまで言っていいものか分からなかったもので」

「マスターには仮の仕事の内容を伝えるのみ、です。あなた達が一度会いたいというので特別に用意した席なのですよ?」


 そう――依頼者と会う必要など始めからない。

 これはレイアが《魔導協会》から受けた仕事であり、その本当の依頼内容まではフエンには伝わっていない。

 レイアの望む未来への一歩のために受けた依頼なのだ。

 魔導協会と交わした約定――レイアが持ってくる依頼は全て、この魔導協会に関わる依頼ということになる。

 レイアはバルトメアに向かって、核心を突く質問を投げかける。


「《黒印魔導会》は現れるのですね?」

「ハイ、間違いないと思いますよ。明日のパーティーには、多くの魔導師も出席しますから」


 レイアの言葉にバルトメアがそう答える。

 以前、フエンとレイアが三人の男女を倒した勢力。

 フエンと同じ《七星魔導》のコクウ・フォークアイトが作り出した組織だ。

 魔導協会との取引の一つ――それは、黒印魔導会を潰すことであった。

《黒竜》の復活を目論む組織というが、実際のところ《七星魔導》という地位にあったコクウが本当にそれを望んでいたのか分からない。

 ただ、レイアにとってはそれもどうでもいいことなのだった。

 そんなレイアの様子を見ながらバルトメアは、


「明日――おそらく幹部クラスのものがやってくるのは間違いないかと」


 そうはっきりと宣言する。

 レイアは表情を変えることなく、その話を聞いたのだった。


「幹部クラスですか」

「……いやはや、驚きませんか」

「驚く?」


 レイアはバルトメアの言葉を聞いて、くすりと笑う。

 黒印魔導会の幹部――そんな言葉を聞いたところで、レイアは何を驚けばいいのか分からない。

 何故なら、レイアの主は《七星魔導》の一人であり、いずれ《魔導王》を名乗る存在なのだから。


「驚くことなど何一つありませんよ、むしろ歓迎します。仕事は早い方がいい――メイドにも共通した当たり前のことですよ?」


 レイアにとって、黒印魔導会と魔導協会の争いなど気にも止めることではない。

 だが、メリットになることがあるからこそ、レイアはその仕事を受けたのだ。

 ――それが、フエンにとってメリットであるかどうかはまったく別の話ではあるが。

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