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44.運ばれて

 カタン、カタンと揺れる馬車の中――僕とレイア、そして対面にはグリムロールさん。

 三人で向かっているのは《フェルメント王国》の王都、《クラスティリア》。

《魔導要塞アステーナ》のある場所や《カミラル》の町はこのフェルメント王国の領内にあたる。


「それで……パーティに会場の見回りが仕事?」

「はい、何かあった場合にはもちろん対応の必要はございますが、その辺りはマスターの方が慣れていますよね?」

「まあ、会場が襲われるっていうのはないことではなかったかな」


 レイアの持ってきたという仕事――それは、この王都で開かれるパーティでの見回りの仕事ということだった。

 こういった類のパーティは、小さなものから言ってしまえばかなりの数が実施されているはず――だが、冒険者を呼ぶということは周辺諸国の要人を呼ぶのだろう。

 馬車ではおよそ二日かかる距離だ。

 さすがに僕も全力で魔法を使い続けるのは疲れる。

 普段はきちんとした移動手段を持って行動したいと思っていた、のだけれど。


「あははっ、こんなものしか出せなくてすまないね」

「いや、助かるよ。僕とレイアに移動手段はあまりないからさ」

「ポチに乗れば私達だけならばすぐに到着すると思いますが、荷物は全て吹き飛んでしまいますからね」


 それはどう考えてもまずいので、最初に却下された案だった。

 この馬車ではなく、馬の方をグリムロールさんが用意してくれた。

 漆黒の身体に、深紅のたてがみ。

 そして、それ以上に真っ赤な眼。

 ポチほどは大きくないものの、通常の馬より二回りは大きかった。

《吸血馬》――グリムロールさんの数少ない眷属らしい。

 女の子が好きだと公言するグリムロールさんだが、女の子を眷属にするようなことはしないらしい。

 彼女にとっては、あくまで可愛い子は食事の対象ということなのかもしれない。



「でも、この馬って見た目的に大丈夫?」

「見た目的というのは?」

「そのままの意味だよ。さすがに、その、凶悪すぎないかなって」

「あははっ、凶悪というのは間違っていないかもしれないね。この子が本気を出せば、一つの町くらいなら簡単に滅ぼせるだろうから」


 さらりとそんなことを言ってのけるグリムロールさん。

 町一つを簡単に滅ぼせる魔物――そういう類は、緊急の指令によって最優先討伐対象とされていたのが、僕の記憶する話だ。


「見た目としては問題ないかと思いますよ。このくらいの馬車ならいくらでも王都には来ますから」

「え、そうなの?」

「まあ、少しくらい大きいかもしれませんが、クラスティリアはとても大きな都市です。行き交う人の中には、《魔物使い》によって飼い慣らされたものもいるでしょう」

「魔物使い……今の僕と同じ呼び方だね」

「はいっ、とても格好良いと思います!」

「いや、僕は褒めてほしいとか思ってないよ?」

「褒め損……!?」

「損得勘定で褒めないで!」


 僕とレイアがそんな風に話していると、グリムロールさんがふと気付いたように会話に入ってくる。


「ところで前から思っていたんだが、マスター君は普段から『僕』と話すんだね」

「! そ、そうだね……」

「話し方もどことなく男の子っぽいし」

「そ、そういう癖があってさ」


 そう――全てはレイアの嘘から始まる。

 グリムロールさんは僕のことを女の子だと思っている。

 現在絶賛性別詐称中なのだ。

 ばれたらどうなるかは想像したくないけれど、僕の血の味や匂いだけでばれることはないらしい。

 つまり、どういう服装であれ関係はないと普段着で来ていた。

 大体性別を間違えられることはあるけれど、話し方で気付く人もいる。

 ――とはいえ、グリムロールさんのために会うたびに話し方を変えたり服装まで気にしたりしていては僕の方がもたない。

 ある意味本当の女の子でもしている気分になりそうだった。

 そんな僕の考えをよそに、グリムロールさんは顎の部分に手を当てて、


「ふむ、なるほど。僕っ娘というやつか。これもまた良いものだね。いやぁ、初めて会った時は少し興奮していたから気付かなかったよ」


 あははっ、と笑いながら言う。

 グリムロールさんは吸血鬼ではあるが、とても明るい性格をしていて普通に話していては吸血鬼と気付かないだろう。

 見た目はクールな女性だというのに、性格は明るめというちょっとしたギャップの方が目立つくらいだ。


「グリムロールさんはマスターの血が大好きですからね。マスターの前で正気を失うのもおかしくはありません」

「さらりと怖いこと言った!?」


 僕の前で吸血鬼が正気を失う――その状況は考えたくはない。


「なぁに、心配ないさ。あらかじめいっぱい補給しておいた」

「そ、それはそれで怖い話のような……」

「マスター、そんなに怯える必要はありません。グリムロールさんはマスターの味方であり、敵ではないのですから。血液だってマスター味の血液を培養しているだけですよ」

「培養しているだけっていうのは問題だと思うよ」

「それならば、君が直接くれるのかな?」

「それはお断り!」

「私の純潔はマスターにお渡しする予定です!」

「何の宣言なの!? 今の流れから!」

「マスターの純血と、私の純潔で掛けてみました」

「うん――うん? 僕のは純血って言うのかな……?」

「人間と人間同士の純潔ということで良いのではないかな? これに別の種族の血が混じれば混血となるけれどね。混血は混血で味わい深くてね……」

「そ、そうなんだ……」

「なかなか興味がある話ですね。味のレパートリーになるかもしれません」

(まさかの料理ネタ収集……!? 一応食事の話ではあるんだけど……)


 そう――先ほどから物騒な話をしているけれど、僕達が話しているのはあくまで食事の程度のことだった。

 ただ食事をできない人物と、主食が血液の吸血鬼が一緒に話しているだけだ。

 ここにいる僕だけ、普通に考えたら何かの生け贄にしかならないような存在な気もする。


(……うん、よく考えたら、いや考えなくても、この状況がおかしいね)


 僕は一人納得していた。

 そして、レイアの隣にあるトランクに目をやる。

 僕用に作られたドレス――それを着て、パーティに参加することになっているのだ。

 正直あまり気は進まないけれど、レイアがすでに受けてきた仕事であるということと、僕が行かないのであればレイアとグリムロールさんの二人だけで行ってくるというので僕も行くことになった。

 最近のレイアの動向を見れば分かる通り――いや、動向を見た上で何をするか分からないということが分かっている。

 何かあったときのために近くにいた方がいいという僕の考えは間違っていないだろう。

 もっとも、戦闘であればアルフレッドさんを呼ぶだろう。

 心配なのは、いざ戦闘が発生したときの規模の大きさだ。

 グリムロールさんがどういう風に戦うか分からない。


「……」

「ん、私の顔に何かついているかな?」

「あ、ごめん。そういうわけじゃなくて……」

「マスターはそんな真剣に私の顔を見つめてくれたことなかったですよね?」

「一々細かいことで反応するな!」

「細かくありません! 私にとってはとても重要なことなのです! マスターに見つめられたらきちんと日記にも残して――」

「え、日記?」

 レイアの口から意外な言葉が飛び出したので、思わず聞き返してしまう。

「あ、うっ――しゅ、趣味みたいなものです」


 何故か視線が泳いで言葉に詰まるレイア。

 僕のことを書いている日記というより、レイアがつける日記というのには興味がある。

 魔導人形であったレイアが、これほどまでに感情豊かになった時期や理由が明確化されるのかもしれないのだから。


「そうなんだ。今度見せてほしいな」

「!? マ、マスターはそういう趣味のある方なのですか!」

「どういう趣味!?」

「た、他人の日記を覗きみようだなんて、悪趣味です!」

「いや、だから今許可取ってるんじゃないか」

「そ、それはそうですが――とにかく、日記の件はお忘れください。次にその言葉を口にしたら……」

「わ、分かったって」

「日記」


 ぼそっとグリムロールさんが締めの一言に使った。

 興奮さめやらぬレイアのターゲットが僕からグリムロールさんに変更され、今度はそれを止めるのに必死になるのだった。

あとがきでも一度記載させていただきます。

10月以降の予定となっておりますが、アース・スターノベル様より書籍化致します。

詳細等は活動報告にございます。

またタイトルは書籍化に伴い変更しておりますので、ご注意ください。


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