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41.管理者《グリムロール》

「ほ、本当にこれで行くの……?」

「はい。しかし、作った私が言うのもなんですが、思った以上にお似合いですね」


 僕は今、グリムロールさんがいる《第十一地区》にいた。

 そこは最早ダンジョンと呼べるような雰囲気はなく、王族の城の中にでも招待されたような感じがあった。

 それは目の前にいるメイド服のレイアと――自身の服装に起因するのかもしれない。

 全体的に黒を基調としているが、スカート部分は布自体が薄くやや透けているようにも見える。

 肩の部分にはドレスに合わせて黒い布地のものを羽織るようにとレイアに言われたが、「マスターなら必要なさそうですね」とレイアが言ったのは、どういう意味で言ったのか知りたいところではあった。

 そう――鏡の前にも立って確認したが、今の僕の姿は完全に女性に近かった。

 自分でもよく間違われるから分かっていた事ではあるけれど、髪色と同じ灰色で長いウィッグを被ればもはや違和感がない。


「で、でも下着は普通でよくない?」

「マスター、いいですか。今のマスターは女の子なんです。グリムロールさんにばれないように自分は女の子だと言い聞かせてください」

「精神論なの!?」

「はい。ですが……マスターは骨格も女の子みたいですね」

「それは褒めてないって事でいいよね?」

「女の子みたいで素敵です、と褒めてもらいたいという事ですか?」

「ち、違うよ。仮に褒められても複雑って話で……」

「心配しなくてもマスターは可愛いですよ、女の子みたいで」

「複雑って言ったよね!?」

「ふふっ、ですが本当にお似合いですね。私としてはもっと男らしい方向のマスターでいてほしいと思っていたのですが、これはこれで……」


 そう言いながら、レイアは僕の方をまじまじと見てくる。

 改めて見られると恥ずかしい気持ちの方が少し大きかった。


「そ、そんな真剣な目で見ないでほしいんだけど……」

「そういう仕草も見習うところがあると思いまして」

「何を見習うの!?」

「それはもちろん少女らしさを――はっ、私は何を言っているのでしょう。マスターが私よりむしろ女の子感があって少し嫉妬心まで出てきそうです」

「そんなところで嫉妬とかされても困るんだけど……」


 レイアに何故か嫉妬心を向けられる羽目にまでなってしまったが――そもそもの原因はレイアにある。

 もちろん、レイアが僕を守るために仲間に加えてくれたという《吸血鬼》も、話を聞く限りではアルフレッドさんの代わりを務めてくれてくれる事もあるみたいだ。

《管理者》の中では融通が効く方――というか、ひょっとすると初めてまともに会話のできる相手かもしれない。

 デュラハンやフェンリル、ヤタカラスやゴーレムとは違うのだ。

 もっとも、ゴーレムの場合は僕でも会話はできるのだけれど。


「それにしても、豪華というか……雰囲気が凄くない?」

「グリムロールさんの趣味に合わせて設計していますので、要塞内では少し豪勢な方かもしれないですね」

「え、これよりも豪勢なところがあるの?」

「それはともかくとして、グリムロールさんのいるところへ向かいましょう」


 誤魔化されるような雰囲気を感じつつも、レイアに促されてグリムロールさんのところへと向かう。

 以前王国に仕えるような事もあったけれど、そういうところとも違う独特の内装――吸血鬼が好むものなのか分からないけれど、全体的に赤いところが多かった。

 そういう意味でも《血》を連想させる。


(僕の血が好きな吸血鬼に女装して会うって……何か色々おかしくないかな……?)


 僕の心の中の思いはきっと間違っていないのだろう。

 そんな風に考えながらも、レイアについて歩いていく。


「こうしているとマスターはどこかの国のお姫様で、私はそのメイドというような感じがしますね」

「うん、あんまり嬉しくないかな」

「マスターは私の作ったドレスを着て嬉しくないのですか?」

「その質問は嬉しいって答えたらダメな人だよね!?」

「嬉しくないのですか?」

「ダ、ダメな人だから……」

「ウレシクナイノデスカ?」

「わ、分かったって。……嬉しいよ?」

「私はマスターに男らしくなってほしいので喜ばないでほしいのですが」

「だったら何度も問いかけないでくれる!?」

「申し訳ありません、つい癖で」


 癖というよりは完全にレイアの性格だと言える。

 とりあえず僕の事をいじっておきたい――そんな雰囲気を感じさせる。

 実際、レイアは申し訳なさそうな表情をまったくせず、笑顔でこちらを見ていた。

 僕はこれから《管理者》に会うだけでもそれなりのプレッシャーを感じているというのに。


(そもそも吸血鬼って……下手をすれば戦いになることだってあるかもしれないわけだし。それに、今までの管理者のことを考えたら普通なわけもないのかな)

「はあ……」

「可愛い子がそんな浮かない顔をしていては台無しだぞ?」

「っ!」


 気配すら全く感じさせず――けれど、声はすぐ近くから聞こえた。

 僕とレイアが歩いてきた背後から、突然その人は現れたのだ。


「あ、グリムロールさん。すでにこちらまで来ていたのですね」

「ああ、君達がここに来ていたのは入った時から気付いていたからね。歓迎するよ、レイア。そして、私のマスター」

「えっと……はじめまして」

「ふふっ、そうだね。私も長くここにいるけれど、実際に『会う』のは初めてかな。けれど、いつもお世話になっている――というのもおかしな話、かな」

「あ、ははっ、そう言われるとちょっと答えにくいというか……」

「まあ、そうだろうね。一先ずゆっくりできる場所にでも行こうか」

「はい。マスター、行きましょう」

「う、うん」

「……? どうかされたのですか? マスター」

「いや、何でもないよ」

(お、思ったよりも普通だった……!)


 今までの管理者達と比較すれば、ではなく本当に普通の人のようだった。

 黒いスーツに身を包み、赤い髪で片目を隠した女性――グリムロールさんに出迎えられたのだった。

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