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39.謎のドレス

「マスター、マスター朝ですよ」

「ん、うん?」

「おはようございます、マスター」

「うん、おはよう……」

「ふふっ、まだ眠そうですね」

「いや、頭が痛いっていうか……」

「大丈夫ですか? お薬をご用意しましょう」


 そう言って、レイアは立ち上がる。

 朝――起きたらレイアがいるというのは毎日の事だから気にしなくなっていた。

 ただ、今日のレイアは何も着ていない状態だった。


「いや、何でレイアは裸なのさ……」

「! 何でって……」


 僕に指摘されたレイアは、何故か自分から裸になったはずなのに恥ずかしがる。

 ここで、僕も一つの違和感に気付いた。

 バッと飛び起きて確認する。

 昨日何があったのか、飲み会から数時間までの記憶はあるが、それより先の記憶はない。

 ただ、僕の置かれている状況はとても僕の頭の中で整理できるものではなかった。


「……僕も裸だね」

「はい」

「えっと、どういう事?」

「私の口からは、とても……」

「え、何があったの!?」


 いつもの通り、レイアがからかっているのだと思いたい。

 けれど、レイアは深く語ろうとせずにイソイソと薬を用意したかと思えば、


「そ、それでは朝食の準備を、してきますので」


 そう言って部屋から去っていった。

 朝、起きたばかりでレイアが朝食の準備ができていないというのは初めての事だった。

 僕は思わず頭を抱える。


「いや、まさか本当に……?」


 酔っぱらって何かしてしまった――あり得ない話ではない。

 そう思いつつ、ふと顔を上げると、こちらの様子をうかがうようなレイアの姿があった。

 その表情は先ほどまでとは違い、いたずらっぽく笑っていた。

 何だ、レイアの冗談なのかとホッと胸を撫で下ろす。


「ふふっ、昨日はお楽しみでしたね」

「……!? 何その意味深な発言!?」

「さあ、何でしょうか。ふふっ」

「レイア? え、ちょっと待って。本当に何があったの!?」


 朝から不穏な事がありつつも、こんな日常が僕の毎日だったりする。


   ***


 僕が目を覚ましてから一月くらいが経過した。

 フエン・アステーナとしてではなく、フェンという冒険者としての活動は定期的に続けている。

 不本意ながらもCランクの冒険者となった僕は、それなりに平穏な日々を過ごしていた。

《黒印魔導会》との戦い以降、同じ組織に所属している魔導師がここにまたやってくるような事もない。

 ブレインの時はやはり、運悪く見つかってしまったのかもしれない。

 もっとも、僕の自宅がもっとも平穏からは程遠い存在なわけで……。


「マスター、そろそろポチの散歩などに向かってはどうですか」

「え、それ僕がやるの?」

「この《魔導要塞アステーナ》に所属する管理者と仲を深める事はとても重要な事だと私は思います」

「そ、そうかな。また今度でもいい?」

「ええ、もちろん。今度必ずやってくださるんですね?」

「……」

「約束ですよ?」

「う、うん」

「約束、ですよ。ヤクソクデスヨ」

「答えてるよね!?」


 僕の作り出した魔導人形――レイアはそんな風に答える。

 魔導人形とは本来、感情の起伏の薄い命令に忠実な存在だ。

 人によって作り方は違うけれど、僕の作り出したレイアは魔導人形としてはそれなりにレベルが高い――と自負していた五百年前からさらに進化を遂げてとんでもない存在になっていた。

 僕の命令をあまり聞かないと言うか、いや聞いてくれてはいるんだけど。

 何と言うか普通に人間らしい反応をするようになってしまっている。

 それはダメな事とは言わないけれど、僕としては相変わらず最大の謎だった。

 そこにレイアの言うポチといった管理者の存在もある。

 今のところ、僕の知っている管理者は《デュラハン》のアルフレッドさん、《ヤタカラス》のヤーサン、《ゴーレム》のギガロス、《フェンリル》のポチの四体だ。

 一応紹介を受けてはいないけれど、地下に森を作ったりする管理者やら《ドラゴン》に、おそらく《吸血鬼》も存在している。

 レイアが人間らしくなったと思いつつもそんな人間離れした存在をこの要塞に従えているという事実があった。


「……というか、レイアはさっきから何をやってるのかな?」

「私ですか? それはもちろん、洋服を作っているんです」


 レイアの手元にあるのは針と糸。

 そして、目の前には石灰で作られた人型がある。


「いや、分かってるんだけどさ。それ、ドレスっぽいから」

「いわゆるパーティドレスというものですね。ですが、普段動く分にも問題ないものを作っています」

「そのメイド服もレイアが?」

「はい。以前はマスターが購入していただいたものを使用しておりましたが、戦闘などの事も考えると自分で作った方が便利なので」

「そっか。うん、でもそういう服を使う機会があるんだなって」


 レイアは基本的に僕と一緒に行動する。

 もちろん一人の時は町で買い物もするけれど、町中では主人と従者としての関係が広まっていた。

 主に、レイアが誇張して話しているところもあるのは僕の耳にも届く。

 たまに変な煽り方をされる事もあるからだ。


「私がこういう服を着るのに抵抗がありますか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……まあ、町の方ではまた色々言われそうだなって」

「色々とは?」

「な、仲いいね、みたいな」

「マスターは私と仲が良いと思われるのが不服ですか?」

「あ、そういう事じゃないよ! 結婚してるの? みたいな煽り方されるから、また言われるかなって思うとね」

「! なるほど……それはそれでありですね」

「ありなの?」

「既成事実が事実になるわけですね」

「ならないよ!?」


 レイアにとって周囲からそう思われたら事実だというところがあるのだろうか。

 レイアはくすりと笑う。


「ですが、残念ですね。これは私の服ではありません」

「あ、そうなんだ。え、それじゃあ売るために作ってるとか?」

「服屋を営む予定もございません。お金がなくなりそうになれば、マスターのために身体を売るくらいの事は致しますが」

「そ、そういう事はダメだよ」

「? 私の素材は結構な高値で売れますが」

「本当の意味で身体を売るんだね!?」

「ふふっ、どういう意味での想像をされていたんですか?」

「そ、それは……とにかく! 売るつもりもないなら誰に作ったのさ」

「私が服を作る相手は一人しかいないじゃないですか」


 レイアがそうにっこりと答えた。


「うん――うん? え、僕!?」


 僕用のドレスという、まったくもって意味の分からないものを作り出されていたのだった。

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宜しくお願い致します!
大賢者からアンデッドになったけどやることがなかったのでエルフの保護者になることにした
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