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31.探し者

《カミラル》の町に二人の男女がやってきていた。

 一人は大きな斧を背負う女性と、もう一人はよろよろと歩く杖を持った老人だった。

 その姿は町の中でもよく目立つため、特に冒険者達の中でも話題になっていた。

 そんな事は気にもしない様子で、二人は町を歩いていた。


「ねえ、リーザル。ここにまだブレインを殺った奴がいると思う?」

「さての。ザイシャ、坑道の方は見に行ったんだろう? どうだったかの」

「坑道の中は荒れていたけれど、魔物はいなかったわ。寄り付こうとする様子もない。結界の類か何かかと思ったけれど、そんな様子もなし」

「うむむ、魔物がいない? それはおかしい――面白い事だの。仮に坑道の魔物を片付ける事ができたとして……少しくらいなら寄り付くだろうて。本当にいなかったのか?」

「そう、いなかった。面白いよね、人っ子一人じゃなくて魔物っ子一人いないの。あはっ、私は魔物っ娘の方が好き」

「ほほほっ、お前の趣味は聞いとらん」

「聞いとけよ、爺」


 ザイシャとリーザルは話しながら、冒険者ギルドへとやってきた。

 もっとも手っ取り早い話――ブレインを倒せる可能性のある者が冒険者にいるのではないかと判断したのだ。

 あるいは、それを知っている者でもいい。

 Sランクの冒険者がいれば、それくらいの事をやってもおかしくはない。


「はぁい、ちょっといい?」

「あ、はい。何でしょうか」


 ギルドの受付にやってきて、ひらひらと手を振るザイシャに、受付のマリーが対応する。

 リーザルは入口付近の椅子に腰かけていた。

 ギルド内にいた何人かの冒険者がザイシャの方に視線を送る。


「いい女だな……」

「ああ、お前もそう思ったか」

「ザイシャよ、よろしくねー」


 ザイシャがそんな冒険者達に愛想笑いをしながら、マリーの方に向き直る。

 にこやかな表情で、ザイシャは尋ねた。


「ここの近くに坑道ってあるでしょ?」

「あ、はい。坑道に何かご用でしょうか。あそこはこれから整備の予定がありますけど……」

「あー、うんうん。整備してくれちゃっていいと思う。そうじゃくてさぁ、私あそこの所有者と知り合いなの」

「そうなんですか? それでしたら依頼主の方にご連絡とか――」

「うん、そう。取れないのよね。それでさ、この辺りで女の子をいっぱい連れたダサイ男を見なかった?」

「え……ダサイかどうかは分かりませんけど、そういう人は見ていないですね」

「そう? あ、ちなみに女の子っていうのは《魔導人形》の事なのよね」

「え、魔導人形……?」


 ザイシャの言葉を聞いて、マリーの表情が少し変わった。

 ザイシャはそれを見逃さない。

 優しげな表情のままザイシャは続ける。


「あ、うん。早い話さぁ、その魔導人形をいっぱい連れ回している男が坑道の主なの」

「――ちょっといい?」


 ザイシャとマリーの話に割って入ったのは、すぐ近くで仕事の確認をしていたフィナだった。


「あら、あなたは知ってる?」

「その依頼主の事は知らないけれど、魔導人形の方は知ってるわ」

「それは助かるかも。魔導人形はどこに?」

「その前に……その依頼主とあなたはどういう関係なの?」

「うーん、仕事仲間よ。仕事仲間」

「仕事仲間……? あなた、冒険者?」

「あはっ、そう見える? まあ、そっか。斧とか背負ってたら――あら、斧使う人ってあんまりいないのね」

「話を逸らさないでもらえる? あなたが坑道の依頼主を探している理由を聞きたいの。私だって――」

「あははっ、聞きたいのは私の方なんだけどね? 魔導人形はどこにいるか、それに応えてほしいの」

「……壊したわよ、坑道で」

「! へえ、そういう事?」


 フィナの言葉を聞いて、ザイシャも理解する。

 少なくともフィナは坑道にいて、魔導人形との戦闘を経験している。

 ただし、ザイシャから見てフィナは多少実力もあるようだが――とてもブレインを倒せるレベルにあるようには見えなかった。

 それに、魔導人形の件に触れてもブレインの事に触れないのならば、本人と会った可能性は低い。


「一応聞くけれど、あなた一人で倒したの」

「いえ、みんなと協力したけれど……ほとんどは《魔物使い》の冒険者が倒したわ」

「そう! その人を探しているの!」

「……は?」


 フィナの言葉を聞いて、ザイシャは目を輝かせた。

 魔物使い――ブレインを倒した相手はきっとそいつだ、と。

 魔物使いという事ならば、おそらくザイシャやリーザルと同じ魔導師という事になる。

 ブレインの魔導人形が動かなくなってから三日しか経っていない。

 まだこの町にいる可能性も高く、ザイシャはそれを期待してこの町にやってきたのだ。

 こんなに情報が早く手に入るとは、と喜んでいたのだ。


「それで、その人はどこにいるの?」

「……どうして探しているのかしら?」

「あはっ、あなたには関係ない事。ただ純粋に会いたいだけなの」

「教えられないわ」

「どうして?」

「理由を聞いてないから。あなたはどうして、魔物使いの冒険者を探しているの?」

「そんなの簡単な事じゃない――私がブチ殺すためよ」


 ザイシャはにやりと口角を吊り上げて笑った。

 その表情を見て、思わずフィナが剣の柄に手を触れる。

 だが、それよりも早くザイシャが斧を振るった。


「あはっ、あなたの顔は好みだから――できれば潰したくないの」

「ひっ」


 ブゥンと振るった斧は、すぐ近くで二人の様子を見守っていたマリーに向けられていた。

 ピタリと眼前で止められたそれに、マリーが動けずにいる。

 それを見たフィナも動きを止めた。

 他にいた冒険者達もその様子を見てざわつく。


「……っ!」

「リーザル、よろしく」

「まったく、手間のかかる事をするの」


 ザイシャの声を聞いて、リーザルは杖を床につく。

 トンッと軽く小突くと同時に、ギルドの周囲を覆うように結界が張られたのだった。


「ここで待っていたらその魔物使いは来るか? それとも、もう二度とここには来ない? 来ないのなら――ここにいる意味はないのだけど」


 邪悪な笑みを浮かべながら、ザイシャはそう言い放ったのだった。


   ***


「マスター、見てください。綺麗な花ですよ」

「珍しい花だね」


 レイアがくいっと僕の袖を引っ張ってその花を指差す。

 翡翠色のそれは、僕自身もあまり見た事がないものだった。

 葉も緑であるため、全体を通して緑感の多い花だけれど、不思議と綺麗に見える。


「マスターの部屋に飾っておきましょうか」

「いや、僕は部屋に花を置く趣味はないから……レイアの部屋に飾っておくといいよ」

「ふふっ、それならマスターの部屋でいいじゃないですか? 私はマスターが寝る時も一緒にいるんですし」

「レイアの部屋の意味は!?」


 僕とレイアは何故か町に向かう途中――森の中でピクニック状態にあった。

 レイアは用意した弁当をバスケットに入れて、僕と森の中を散策する気満々だったのだ。

 一応、この森の中には魔物も住んでいるし、とてもピクニックをするのに適しているような場所ではない。

 けれど、レイアはにこやかな表情で森の中を進んでいく。


「マスター、この辺りで休憩しましょう」

「う、うん。まあ、いいけど……」


 近くの木には魔物が付けた傷跡や、争った痕跡が垣間見える。

 レイアは気にする様子もなく、跡のついた地面にパサリとシートを敷き始めた。

 僕は今日――町でみんなとの飲み会に参加するために向かっていた。

 その事についてはレイアも知っている。

そして、今朝方の事――僕が町に行く事を伝えると、


「マスターが楽しむ事は私の喜びです。もちろん、マスターが一人で楽しむために町に行く事を止めたりしません。何故ならマスターの喜び、そして楽しみは私の喜びでもあるからです。だから私は一人、ここで待っています。別に気にしなくてもいいですよ。マスターはマスターのために、町で冒険者の方々と交流を深めてください。酔いつぶれても呼んでいただければ迎えを送ります。ポチがいいですか? それとも――」

「レ、レイアは何かしたい事ない? 飲み会まで時間あるからさ!」

「いいんですか? ではピクニックで!」


 有無を言わさずそんな宣言を食らったのだった。

 別に直接したい事を言ってくれれば、僕にできる事ならするんだけれど。

 大体、レイアの言う事は僕にできない事というよりは、やりにくい事が多い。

 けど、今回は普通にピクニックがしたいという、それこそ女の子らしいとも言えるような願いだった。


(レイアはずっと僕の事を守ってくれたわけだし、これくらいの事はしないとね)


 他の管理者についてもしたい事があればやった方がいいのかもしれないけれど、レイアから聞く限りほとんどの管理者が結構自由に生きているようだった。

 それこそ、いつもあの要塞にいるわけでもないみたいだし。

 僕の自宅というよりは、僕達の自宅という事になっているようだった。


「ふふっ、楽しいですね。マスター」


 レイアはこうして座っているだけでも楽しそうだった。


「そうだね。こういう願いだったらいつでも言ってくれていいんだよ?」

「私はこうしてマスターと一緒にいるだけで幸せです。こうして一つずつ事実を積み上げていきましょう」

「うん――うん? 事実?」

「……思い出を作っていきましょう! さ、ここでお弁当も食べてしまいましょうか」


 何か不穏な言葉をレイアが言った気がするけれど、レイアは誤魔化すように用意した弁当を広げ始める。

 レイアが作ったパンでサンドイッチを作ったらしい。

 けれど、僕はレイアの言った事が気になる。


「あの、レイア。事実って――」

「さ、マスター。冷めないうちに」

「サンドイッチは冷めてるよね?」

「ふふっ、今のマスターの突っ込みも冷めていますね」

「そこの突っ込み!?」

「今の突っ込みは冴えていましたね」


 結局そんな風にはぐらかされてしまった。

 事実……思い出じゃなくて事実って何なんだろう。

 よく分からないけれど、レイアの機嫌もいいし下手な事は言わない方がいいかもしれない。


「あ、森の中で虫が少し多いですね」


 レイアはそう言いながら周囲を飛ぶ小さな虫を指で掴んでは、ビッと弾き飛ばしている。

 こういうところを見ると、女の子らしさというのはやはり訂正したくなってくる。

 けれど、虫が少し多いのは事実だった。


「もう少し上の方で食べようか」


 僕はそう言って、地面に手を触れる。

 ズズズッ、と少し地面が揺れると、ゆっくりと盛り上がっていく。

 ピクニックをするなら草原とかの方がいいだろう。

 ここでするなら、見晴らしのいい高さで食べるくらいがいい。

 盛り上がった地面は木々を超えて、森全体を見渡せる高さまで上がった。


「さすがマスター。素晴らしい景色です」

「景色は僕じゃなくて自然のおかげだけどね」

「この景色を見られるのはマスターがいるからです。ありがとうございます」

「う、うん。別にこれくらいなら――」


 レイアに言われて少し照れくさくなって視線を逸らした時、それが見えた。

 町まではまだ距離はあるけれど、僕が視界に捉えたのは、特殊な《結界魔法》がある事。

 それが、町の中にあるように見えたのだ。


「あれは……」

「どうかされましたか? マスター」

「何かの結界みたいだけれど」

「結界……? 町の方にあるようですね」

「! レイアははっきり見えるの?」

「一応、目は良い方なので。 ギルドの上のほうに旗のようなものが見えますが」

「旗?」

「お待ちください。確認します」


 僕の知っているレイアよりも明らかにスペックは上がっている。

 魔法を複数維持しているとはいえ、基礎スペックは高いようだ。

 レイアは目を細めて、呟くように言った。


「『魔物使い、ギルドにて待つ』と書かれていますね」

「魔物使い……? あ、それって僕の事?」


 そういう風に呼ばれるとしたら、僕くらいしかあの町にはいないだろう。

 さらに結界まで張られている――明らかに普通じゃないものが僕を待ち構えているのが分かってしまった。

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