24.お掃除の時間
僕が坑道に戻ると、そこには破壊された数体の魔導人形が展開されていた。
パーツのほとんどを失った状態の魔導人形と、砕け散った魔導人形など――人の姿に近いそれが地面に転がっているのはあまりいい光景ではないのかもしれない。
冒険者達はフィナによって集められて、その冒険者達を守るように二体の管理者が展開していた。
「ヤーサン、ギガロス!」
「かぁー!」
「――――」
坑道内にカラスの鳴き声と、金属の重低音が響く。
ギガロスは「マスター、指示通りに倒した」と言っていた。
「うん、ありがとう。ヤーサンも」
「かぁー」
ヤーサンはパタパタと羽をはばたかせると、僕の頭の上に乗っかる。
重さをあまり感じさせないけれど、レイアが選んだ管理者だ。
ギガロスだけでも十分だとは考えていたけれど、この戦いの形跡を見る限りヤーサンとギガロスはほぼ半分ずつ倒したように見える。
ギガロスは剣を使ったのだろうけれど、ヤーサンがどう戦ったのか少し気になるところではあった。
「レイアが向こうで待っているから、合流してくれるかな?」
「かぁー」
「――」
二人が頷くと、そのまま移動を開始する。
フィナが僕のところへとやってきた。
「えっと……あの二人は結局フェンの味方、という事でいいのよね?」
「うん。ギガロスとヤーサン――ギガロスは僕のゴーレムで、ヤーサンは……ペットだよ」
「そうなのね……。ギガロスさんは人かと思っていたけれど、さすがに少し大きいものね。話しかけても変な声しか聞こえなかったし」
ゴーレムを扱える者にしかゴーレムであるギガロスの言葉は分からない。
突然やってきた魔導人形にギガロスとヤーサン――冒険者達もさぞ動揺しているかと思ったが、
「可愛らしい嬢ちゃんかと思ったが……これが《魔導人形》ってやつなのか。初めて見たぜ」
「助かったよ。後少しでやられるところだった」
「いや、みんな無事でよかったよ」
「それで、あの魔導人形は何だったの?」
「うん……この坑道の持ち主のものだったらしい」
「は、何それ!?」
フィナも含め、冒険者達から驚きの声が上がる。
これはレイアから聞いた情報だ。
ブレインという魔導人形を操る魔導師――彼がこの坑道の持ち主であり、《素材》を手に入れるためにやってきたというのは、この坑道の魔物を使う予定だったとの事だ。
それならば、この坑道の魔物の討伐を依頼するのは少し矛盾を感じさせるかもしれないが、ブレインが望んだのは冒険者達にも倒されない屈強な魔物と――あわよくば冒険者の中から魔導人形の《素体》となる者を選ぶつもりだったのではないか、とレイアは推測していた。
その上で、僕はみんなに問いかける。
「正直色々と迷うところはあるかもしれないけれど、ここは魔石も取れる場所だし……またみんなが利用できる場所にはしたいと思う」
「それはそうだが……」
「もちろん、強制できるものじゃないから。僕の方で――」
「ギルドに依頼している以上、報酬はもらえるんだろ? それにフェンの言う通りだ」
「そうね。ここの魔石が取れるようになるのはメリットが大きいわ。ただ、その持ち主がいるなら仮に魔物を倒しても坑道の所有権がどうとか言ってくるような気もするけれど……」
「ああ、それなら心配しなくていいよ――僕が話をつけておいたから」
「話って……襲ってくるような相手に話し合い?」
「うん。まあ、それ相応の事はするけれど」
僕の言葉を聞いて、フィナも何かに気付いたように頷く。
逃げ出したブレインには、すでにやるべき事はやってある。
「フェンって灰狼を倒した時もそうだけれど……得体の知れないところがあるわね」
「面と向かってそれ言う?」
「ふふっ、でも二度も助けられたから――いいわ。フェンの言う事を信じて、私達はフェンに協力する」
「おう、俺もするぜ!」
フィナに続き、他の冒険者達も頷いてくれた。
今度は坑道の中を分岐する必要はない。
「え、それじゃあ道が分かれた場合は?」
「うん、それなら大丈夫――」
僕がそう答えた瞬間――ズズゥンという地鳴りが周囲に響き渡った。
「……また地鳴り?」
「あ、はは。何か多いね――ちょ、ちょっと待ってて!」
みんなから距離を取り、僕は懐にしまってあった魔道具を取り出す。
これでレイアと連絡が取れるようになっていた。
「レ、レイア……!? どうしてまた地鳴りが!? 二人には優しくするようにって言ったよね!?」
『あ、マスター。もちろん、ギガロスとヤーサンには優しく魔物達を殲滅するように伝えております。もちろんマスター達には危害が加わらないように徹底しております』
「ほ、本当に大丈夫なの?」
『はい、マスター。私を信じてください』
レイアの力強い返答に、僕はそれを信じる事にした。
別働隊として――レイア達が魔物の殲滅に動いていてくれているのだ。
***
「マスターは平穏を望まれました。この坑道はこれよりマスターと私達――そして冒険者以外の者は不要となります。お掃除の時間ですね」
「かぁー」
「――」
レイアの言葉に、ヤーサンとギガロスが答える。
「燃えてきたぜ」と気合の入ったヤーサン。
「了解した」と言いながら魔剣に熱を込めるギガロス。
その刀身の熱がヤーサンの身体に飛び火していた。
「ヤーサン、本当に燃えているので注意してください」
「かぁー!」
「はい、『火傷しないように注意しな』というのはそっくりそのまま返させていただきます。焼き鳥を所望なら止めませんが」
「かぁー!」
「――――ッ!」
「焼き鳥だー!」と叫ぶギガロスとヤーサン。
掛け声でも何でもないのだが、そのまま二体は坑道内の魔物の一掃に再び動きだした。
ギガロスの持つ魔剣は熱量だけで周囲の魔物を殺す事ができる。
ギガロスが離れたところにいても坑道内が熱く感じられるのはそのせいだった。
ヤーサンも身体の大きさを変える。
殲滅が目的であるならば、坑道内に沿って動く必要はない。
ズンッと思い切り身体を上に伸ばすと、壁を突き抜けて魔物達を啄んでいく。
ギガロスが剣を振るえば、坑道の壁を溶かして魔物を燃やし尽くす。
「……あ、坑道の方をきちんと保持していくようにと伝えておくのを忘れていました」
レイアはフエンの事以外基本的には気にしていない――冒険者達の事も気にかけた反動によって、坑道の事をすっかり忘れていたのだった。
「ヤーサン、ギガロス! 坑道の保持も忘れないように! 優しくですよ、優しく!」
フエンに言われていた事を伝えた。
だが、耳元に届くのはザァー、ザァーという壊れた音声のみ。
二体との通信が途切れていたのだった。
そんな時、フエンから通信が入る。
『レ、レイア……!? どうしてまた地鳴りが!? 二人には優しくするようにって言ったよね!?』
「あ、マスター。もちろん、ギガロスとヤーサンには優しく魔物達を殲滅するように伝えております。もちろんマスター達には危害が加わらないように徹底しております』
『ほ、本当に大丈夫なの?』
「はい、マスター。私を信じてください」
レイアはそうフエンに伝えた。
レイアの言葉を信じてくれたのか、フエンは安心した様子で通信を切る。
レイアは一度、ふっと小さく息を漏らして微笑みを浮かべる。
「ヤーサン、ギガロス! 一旦ストップです!」
そしてすぐに走りだした。
レイアがそれぞれ自由に暴れまわる二体を止めに走ったのだった。




