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23.望んだこと

「どうしてってまた……そんな事が気になる?」

「はい、私には分かりませんから」


 僕にはむしろ、レイアの言っている事が分からなかった。

 先ほどまで坑道にいたのだから、戻るのは当たり前の事だ。


「ヤーサンやギガロスは放っておけないじゃないか」

「それはその通りです。まあそれも私の方で回収できますが……聞き方を変えさせていただきます。なぜ、坑道の依頼をお受けになられたのですか?」

「それは言ったじゃないか。僕だって生きるためにはお金が必要だし……」

「ですが、わざわざ坑道での依頼を受ける必要はありませんでした。その辺りの弱い魔物を倒す依頼でも、それこそ予定通り薬草を採取するだけでもよかったと思います」

「それは……」


 僕は言葉に詰まる。

 レイアの聞きたい事は、もっと根本的な話だった。


「マスターは何を望まれますか? 昨日、マスターは平穏を望まれると仰いました」

「うん」

「本当にそれを望まれるのなら、《魔導要塞アステーナ》に引きこもればよいのです。あそこ以上に危険なところはありませんが、マスターにとってはあそこ以上に安全な場所はありません。それなのに、マスターは外に出て、フィナさんを助けて……その上町で冒険者になって依頼を受けています」


 レイアの言いたい事は分かる。

 早い話、僕にとって一番安全なところは自宅なのだ。

 色々とレイアが物凄いモノ達を管理者に据えているとはいえ、この数百年僕を守ってくれていた事実は変わらない。

 家から出なければそこはもっとも安全だと言える。


「それだとお金が……」

「私が稼ぎます。なんだったら、管理者に国を襲わせたって――」

「それはダメだ!」

「!」


 僕は思わず声を荒げてしまう。

 レイアは少し驚いた表情をしていたが、すぐに元の表情に戻る。

 僕を責めるわけでもなく、ただ無表情で。


「マスターが望むのは、マスターだけの平穏ではないという事ですか?」

「……僕は、そんな良い人間じゃないよ。結局、逃げ出してここにいるんだから」

「逃げ出して?」

「そうじゃないか。五百年経っていたのは予想外だったけれど、僕は驚き反面――喜びもしたよ」


 五百年経ってしまった世界に、僕を知る者はいなかった。

 目の前にいるレイア以外は。

 魔法の違いなんかはあったり、少しいざこざもあったりしたけれど、僕は普通に冒険者として受け入れてもらえている。


「五百年経った実感なんて結局得られないよ。けれど、僕を誰も知らないなら……その知らない誰かと友達になって、普通に暮らしたっていいじゃないか」


 僕の言う事を、レイアは黙って聞いている。

 僕はただ、ずっと思っていた事を続けた。


「元々は、《七星魔導》と呼ばれた時だって僕は国の平穏を望んだよ。それは自国だけじゃない。みんなが平穏に暮らせたらいいなっていう普通の願いだ。けれど、僕の力じゃ結局そんな願いすら叶えられない」

「マスターの力でも……?」

「そうだよ。仲間からも結局は地位欲しさに狙われる事だってある。どこへいっても変わらない。だから、逃げたんだよ。僕の名が知れなくなって、自由なところで自由に生きる――そんな事もしたいって言い聞かせたから。けれど、それでも僕は……」


 僕が最後まで続ける前に、レイアが僕を抱き寄せた。

 魔導人形であるはずのレイアから、誰よりも温もりが感じられた事に驚く。


「マスターはそんな風にずっと悩んでいたんですね」

「……元々、僕みたいな奴が力を持つのが間違いだったんだ。優柔不断でどうしようもない奴だよ、僕は」

「そうですね。正直、そんな事で悩む人はいないと思います」


 レイアに否定もされずにそう肯定されて、少し落ち込む。

 けれど、その通りだと思う。


「人の事を気にかける人はいるとは思いますけど、そんなスケールで気にしますか?」

「それなりに力があると高望みもするものだよ……」

「そうですね。マスターにはそれだけの力があると思います」

「けれど……結局何もできなかったよ」

「マスターのおかげで救われた人だっていますよ」

「……そうかもしれないけれど」

「それなら、それでいいじゃないですか」

「え?」

「正直、マスターが世界平和みたいな事を望んで悩んでるとは私も思いませんでしたけど」

「い、いや、そんな世界平和ってほどじゃ……」

「ふふっ、マスターが望むのなら、世界だってもっと平和にしてみせますよ」

「そんなの、無理だよ」

「します。無理ではなく、私はマスターが望むのならそうします」


 レイアが少し離れて、僕に向き直る。

 先ほどまでの無表情とは違い、レイアは優しい表情で微笑んでいた。


「私はマスターがどんな人間であれ、マスターに従います。マスターが世界を平和にしろというのならそうします。世界を壊せというのならそうします」

「そんな事は言わないよ……」

「ふふっ、そうですね。マスターはそういう人です。それは私だって知っています。それなら――マスターは何を望まれますか?」


 レイアは再び、僕に同じ問いかけをする。


「私はマスターを裏切りません。マスターが何をしようと、私はマスターの事を支えます。マスターはどうしたいですか?」

「どうって言われても……」

「ふふっ、マスターの言うとおり優柔不断ですね」

「! し、仕方ないじゃないか」

「はい、そんなマスターでも――私は愛してますよ」

「……面と向かって言われたのは初めてな気がするね」

「はっ、本当はもっとロマンチックな雰囲気なところで言うつもりが……!」


 レイアが焦ったような、そして恥ずかしそうに言う。

 本当に、彼女はどこまでも人のようだった。

 迷いなくそう言ってのけるレイアが羨ましいと思う反面、ありがたい。


「今どうしたいか、だったね」

「はい、マスター」

「僕は昔から友達もいなかったし、そろそろ飲み友達くらいほしいなって思う」

「はい」

「この後坑道の仕事が終わったら、チームのみんなと酒場でお酒でも飲みたいと思ってたんだ」

「はい」


 レイアは僕の言う事に、全て頷いてくれる。

 そんな風にされたら、僕だって今の願いを言うしかなくなってしまう。


「だから僕は、あの坑道に平穏を望むよ。みんなと一緒に楽しく飲むためにさ」

「――承知しました、マスター。どこまでもお供致します」


 レイアはそう言って、僕の願いを肯定した。

 今は手の届く範囲でもいい。

 僕は僕の望んだ平穏を手に入れるために、もう一度戦う。

主人公はこういう感じの人です、という真面目回でした。

次からは胃壁も攻撃していきたいと思います。

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