18.暗躍する者
坑道内に突入する前に、地鳴りが響き渡った。
僕を含めて、一度冒険者達が足を止める。
「今のは……?」
「なんだろ。そんなにでかい魔物がいるって事?」
フィナは僕の問いかけに首を横に振る。
そんな情報はないという事だろう。
だが、あくまで情報がないだけだ。
坑道内にひょっとしたら、それだけ大きな魔物が潜んでいるのかもしれない。
「今の音で中の奴らが何体か出てきたぞ!」
前方を行く冒険者の言葉で、全員がそれを視認する。
クモの姿をした魔物や、アリの姿をした魔物が複数体、外へと飛び出してくるのが見えた。
「うわっ、虫の魔物か……」
「苦手なの?」
「あまり好きじゃないね」
「そう。冒険者やるなら慣れとかないとね!」
フィナがそう言って駆け出す。
彼女は魔法も使えるが、基本は剣で戦うタイプだった。
灰狼のときは追い詰められていたが、普段の彼女は剣士として優秀だという事がわかる。
剣を振るうその姿に無駄は少ないように見える。
もっとも、剣士ではない僕からの評価ではあるけれど。
「《エアル・カード》」
僕は先ほどの覚えたばかりの魔法を使っていた。
四角い風の壁は防御にも攻撃にも使え、中々使い勝手がいい。
僕としては土魔法辺りがどこでも使えて便利だと思うけれど、パーティの中には中々使ってくれる人はいなかった。
代わりに他の魔法は見て覚えておく。
正直、これだけでも中々楽しい。
(自分の知らない事がたくさんあるっていうのはいい事だね)
素直にそう思う。
知らない人とパーティを組んで魔物を狩りに行くだけでも楽しめるんだって。
(僕の事を知らないっていうのがやっぱり大きいかな)
かつて《七星魔導》と呼ばれた時は、僕の姿を知らない者の方が少なかったくらいだ。
そのせいで、常日頃から狙われるような生活をしていたわけだけど。
「フェン、援護お願い!」
「分かった!」
そう考えているうちに、魔物はさらに数を増していた。
楽しむのも程ほどにしておいた方がいいかもしれない、と早々に感じるのだった。
***
「な、何をやっているんですかーっ!」
レイアの慌てる声が盛りに響く。
大きな地鳴りはレイアのところまで響いており、坑道の上部から土煙が二ヶ所から上がっているのが見えた。
どう見てもヤーサンとギガロスが原因である。
『がぁー』
『――』
「ヤーサン、何か食べながら話すのはやめてください。ギガロス、いくらコンパクト化に成功しているとはいえ、あなたは対国家兵器なんです。対一軒家兵器くらいまで出力を抑えてください」
『――』
「はい、その通りです。蚊を潰すイメージで振りかぶって――」
ドオオオンッ、という大きな地鳴り音と共に、ギガロスの入った入り口からまた土煙が上がる。
「ダメじゃないですかっ!」
『――』
「『難しい?』、何とかしてください!」
『がぁー』
「ヤーサンは何か食べながら話すのはやめてください!」
レイアの注文を受けながら、ヤーサンとギガロスは坑道上部から侵攻していた。
ヤーサンは身体の大きさを坑道内部に合わせてサイズを変更していた。
つまり、坑道内の狭さにぴったりフィットした状態で、ミミズのように坑道を進む。
およそカラスとは思えないような形だった。
一方のギガロスは、フエンの作った際は大きな身体を持ち、固定砲台としての役割の強かった以前に比べるととんでもなくコンパクトになっており、土色の鎧を着た騎士のような姿をしている。
手に持つは太陽の輝きをイメージして作られた魔剣。
軽く振るうだけでも衝撃と熱によって坑道内は爆風に包まれる。
どちらも狭い坑道で真価を発揮できるタイプではなかった。
さすがのレイアも困惑する。
(このままだと坑道自体が崩れてしまうかも……マスターならそれでも無事でしょうが、これでは本末転倒ですね……)
レイアは一度冷静になる。
だが、二人を戻すつもりはなかった。
「ヤーサンは最小サイズで、ギガロスは素手で戦ってください」
『かぁー?』
『――――』
「はい、むしろ真価を発揮する必要はありません。程よく始末する――あくまでその方向でいきましょう」
現実問題、魔物を始末するだけならどちらか片方でも事足りる。
坑道ごと破壊できる能力はどちらも持っているのだから。
けれど、重要なのはあくまでフエンの安全を確保する事。
多少の粗さは許容するつもりだったが、この二人の粗さは荒さにしかならないので、レイアは作戦を変えた。
とにかく安全に数を減らす事――これでようやく、坑道内は静かになっていた。
「ふぅ……これで何とかなりそうです――」
その時、レイアの身体に数本の糸が巻き付けられる。
それは坑道内から溢れたクモの魔物と同じタイプの糸。
だが、そこにいるのはクモではなかった。
「……私に何か御用でしょうか?」
「いやぁ、『素体』探しに来たのですが……あなたのようなとても素晴らしい魔導人形に出会えるとは思わなくて、思わず捕まえてしまったのだよ」
身体に巻き付いた糸を見ながら問いかけるレイアに、そんな答えが返ってきた。
糸を伸ばす複数体の魔導人形と、一人の男がそこには立っていた。
ここから若干真面目パートかもしれないです。




