14.冒険者としての第一歩はまだ踏み出せない
「レイア、これいつまで続けるの?」
「あと三十時間くらいですかね」
「ながっ!? せめて三十分とかにしてよ!」
「かぁー」
一先ず最初の管理者であるヤーサンの紹介を終えて、僕は自室に戻ってきていた。
どうしても愛でてほしいというレイアの願いを叶えるためだ。
……とはいえ、レイアの身体は見た目からしても女の子と変わらない。
とりあえず膝枕をするような形でレイアの頭を定期的に撫でるというよく分からない状況が続いていた。
(こういうのって男がやる側なのかな……)
「かぁー」
「はいはい、ここですか?」
「かぁー」
僕に撫でられているレイアが、ヤーサンを撫でるという謎の撫であいが続く。
正直、ヤーサンの方を触りたかった。
もふもふがほしい。
ヤーサンは隣の地区の管理者として配置しているけれど、レイア曰く第一地区の管理者アルフレッドさんのとこにすらたどり着く事ができる人もほとんどいないのだとか。
そんな中、アルフレッドさんの次に待ち構えるのは僕が作り出した対国兵器とも言える《ギガロス》。
周囲の魔力を吸い上げながら、発動前から周囲を焼き尽くすほどの熱量を持つ光線を放つ事ができる。
正直自分で作っておいてなんだけど、危ないから地下に封じてあったものだ。
サイズも大きいため、小さなヤーサンと比べると自由には行き来できないかもしれない。
まあ、レイアとは違って本当に兵器としての役割が強いからそういうところは気にしないのかもしれないけど。
早い話、アルフレッドさんが健在であれば他の管理者は割りと自由という事だ。
だから、ヤーサンを連れ回しても問題はないらしい。
そのまま部屋に連れてきてしまった。
「かぁー」
「そうですか、それは良かったです」
(いいなぁ……ってあれ?)
「レイア、ヤーサンと仲いいんだね」
「それはもちろん、数百年以上マスターを守り続けた同志ですよ?」
「かぁー」
「ヤーサンも同意しています」
「いや……さっき焼き鳥にするとか言ってたよね……?」
「ふふっ、冗談に決まっているじゃないですかぁ?」
にっこりと笑うレイアに、僕は無言で頷く。
とにかく圧がすごかった。
「今日は冒険者として一歩踏み出す予定だったけれど、これなら他の管理者にも会ってみてもいいかもね」
「! それはいい事ですね」
「うん。最初に知った名前だし、アルフレッドさんに会いに言ってみようかな」
「それはダメです!」
「え?」
レイアがガバッと起き上がると、僕の肩を掴んで向き合って続ける。
「マスターはがんばりました。やっぱり今日はヤーサンだけにしておきましょう」
「き、急にどうしたの?」
「アルフレッドさんは危険日なので」
「なにその表現!?」
「とにかく今日は激しいんです!」
一体アルフレッドさんに何が起こっているというのか。
レイアの慌てぶりを見るとよほどの事なのかもしれない。
「……アルフレッドさんはまだお務めがありますからね」
「ん、アルフレッドさんが何してるの?」
「いえ、とにかく今日はやめておきましょう」
「う、うん」
レイアがそこまで言うのならやめておこう。
それなら昼過ぎくらいから町へ行って冒険者としての第一歩を踏み出せるかもしれない。
「ふふっ、そのかわり今日は私がマスターのために頑張りますから。アルフレッドさんの代わりに」
「いや、僕は午後から町の方に」
「今日くらいいいじゃないですか。だって……こうしてマスターに甘えられるのも五百年振りなんですよ?」
「五百年前は甘えてなかったよね?」
「そんないじわる言わないでください!」
いじわるではなく事実を言っているだけだ。
そんな僕に、トトトトとヤーサンが平行移動してくるように近づいてくる。
太ったヤーサンは歩いていても足が見えないのだ。
ものすごくかわいい。
「かぁー」
「ほら、ヤーサンも『今日くらいゆっくりしていけや』と言ってますよ」
「意外と男らしい!?」
「かぁー」
丸々太った身体で胸を張るヤーサン。
いや、胸を張ってるんじゃなくてデフォルトで胸を張っているのか……。
とりあえず、ヤーサンの身体を撫でておく。
「まあ……今日くらいはいっか」
僕はヤーサンの柔らかさに負けた。
そんな僕とヤーサンのやり取りを見ていたレイアが自身の胸をに手を当てる。
「何故私は巨乳ではないのでしょう……」
「そ、それは僕に言われても……いや、僕が原因なんだけど……」
「胸があったら、今のヤーサンみたいにマスターを癒す事ができるのでしょうか?」
「僕は別に柔らかい物に癒されるのであって胸が好きなわけではないけれど……」
「やはりマスターは心だけでなく身体も女の子なのですね」
「うん?全体的におかしくない!? 心も身体も男だよ!」
僕だって好きでこういう風に生まれたわけじゃない。
うなだれるレイアに対して、僕はある事を思い出した。
「あっ、そう言えばレイアの身体見てなかったね」
「!? そ、それは性的な意味で……?」
「調整的な意味で!」
「調教……!?」
「全然違うよ!?」
間違いなくレイアは分かっていて言っている。
人間らしくなったとはいえレイアは魔導人形だ。
この五百年もの間、レイアが変わらぬ姿でいてくれた事には正直驚いている。
中身は変わり果ててしまったけれど。
それはともかくとして、レイアの身体を一度は見ておこうと思い立った。
「懐かしいですね、全裸でマスターの前に横になった日々……」
「感慨深い感じで言うのはやめてくれる?」
「お医者さんごっこ……ふふっ」
「僕は医者でもないしごっこ遊びもしない!」
「……もう、真面目なんですから」
小さくため息をつくレイア。
変な言葉には言い換えないでほしい。
レイアは立ち上がると、
「分かりました……マスターのため、私は一肌脱ぎます!」
「レイアのためだからね!?」
こうして、今日の午後からの予定は、レイアの身体の確認をする事になった。




