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沈んだ顔があまりにもあからさまだったのだろうか、とうとうそんな状態を3日も続けた頃、休憩時間に、家の工場で一番最年長の検査員の武田さん(俺は、穏やかなこの人が一番工場では好きだ)に、田邊くん、ちょっと……と、声をかけられてしまった。
はい、と、武田さんの傍に行き、休憩室のソファーに座ると、柔和な(けれど、目元はやはり鋭い)顔で、缶コーヒーを手渡されてしまった。俺が良く飲むコーヒーだ。お礼を言って受け取る。
「……最近、心ここにあらず……のように見えますよ……何かあったなら、……私が相談に乗れることならいつものように話しなさい。これでも、歳だけは君よりも重ねていますから……」
控え目な武田さんの言葉は、聞く人によってはうっとうしくも、じれったくも思えるものなのかもしれない。けれど、俺は、武田さんのように静かに話す方の方が安心出来る。
……ただ、親父の愚痴は散々この方にこぼしてきたが、……最近の話は、相談出来る類のものではないように思えた。……けれど、何か糸口を欲しかったのは事実で……俺は気づけば、缶コーヒーを両手で包みながら、俯き、鬱屈したものを吐き出すように言葉にしてしまっていた。
「……いえ、あの、変な話だと思ったら……流してほしいのですけど、……武田さんは、大事な方がなくなったとき、……どのようにして忘れますか……?」
口にした途端に、心のどこかがひび割れたようにも、もう既に手遅れで割れてしまっていたようにも……思えて、よくわからない混沌に陥るような気がした。
武田さんは、一瞬、虚を突かれたような間を作った後、……考え深げに、一拍置いて、遠い目をした。そして、慎重に言葉を刻むように話をする。
その時、ザー、と、窓の外で、行き成り雨が降り始める音が聞こえた。雨の音に交じって、武田さんの言葉を聞いた。
「……そうですねえ、……難しい……とても、難しい、問い、ですが、……私は、30年前に妻を亡くした時、つらい……とは思えても、忘れたい……とは、思えませんでしたよ。……そりゃあ、苦しかったけれどねぇ」
俺は、食い入るように、武田さんを見つめる。気づけば言葉を放っていた。
「……苦しいのに、忘れようとは思えなかったのですか……そんなん、俺……解らねえや……」
自分の声がしりすぼみに情けなく小さくなっていくのを自覚していながら、それでも繕う気持ちにもなれなくて、肩を落として顔を俯けた。
武田さんは、考え考え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……私は、弱かったですからねぇ、妻がいない生活だけでも苦しいのに、その思い出すら過去にすることなど絶対に出来なかった。……実際、まだ私の心の中に、妻は生きていますから……それが、支えでもあります」
そう、笑って見せた。
武田さんの声が点のようにまだらに俺の中でぽつぽつ広がって、それが線としてつながったような気がしたけれど、それを俺は、言葉には出来そうに思えなかった。
……けれど、その時の感覚を言葉にはできなくとも、俺はどこか、腑に落ちたんだ。武田さんの声のトーンと言葉に落ち着いた俺がいた。
——実際、まだ私の心の中に、妻は生きていますから……それが、支えでもあります
すっ、と、飲み下せなかったものがすり抜けていったような不思議な感覚の中に俺はあって




