8.感覚(挿絵あります。苦手な方は回避されてくださいませ)
田邉が、備えられている高圧洗浄機で、朝一番の床の掃除を行っている。ただただ黙々と。
朝からずっと、田邉は、僕の方を一度も見たりしない。僕は、何、気にしてるんだ、と、イラついた気持ちになる。
隣の電気自動車のおいちゃんを横目で見て、僕は、自分の身体に使われている燃料のことを思う。僕の身体の動力源は、ガソリンエンジンだ。
エンジンの原理は、簡単に言うと、ガソリンは、密閉した容器に空気と共に詰められると気化する。密閉された容器の中にはガソリンが気化したものがたっぷりと詰まっている。それを熱したら?当然だが、急激に熱せられた容器の中で膨張し、密閉した容器のふたがはじけ飛ぶ。気化したガソリンが熱せられて膨張し、大きな圧力が生まれる。そう言った原理を応用したものがガソリンエンジンだ。
これらの原理を応用したピストンの往復運動によって、サイクルが出来上がる。
詳しいことは、省くけれど、すなわち僕が言いたいのは、このエンジンの仕組みは、僕の心臓の仕組みだということ。僕は、ずっとイライラしていた。田邉の言葉を思い出すと、僕のガソリンエンジンの心臓エンジン本体のシリンダヘッド内のバルブが、カムシャフトによって開閉され、クランクシャフトによりタイミングベルトが駆動しそうになり、シリンダの中をピストンが上下動しコンロッドを伝ってクランクシャフトを回転させる。今にも走り出しそうになるくらい、心がむかむかして、アイドリング状態になりそうになるんだ。
エンジンも掛かっていないのに。
……僕、馬鹿みたいだ
隣の電気自動車のおいちゃんが、そんな僕を横目で見やって、ふっとこんなことを言った。
「……お前さんは、ちょっと変わった車だのう。……車にしては人のような反応をされる」