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71.ばあちゃんのカレー

 目が覚めると、俺は、温かなお日様の匂いのする布団の中に潜り込んでいた。力のないばあちゃんが俺を一生懸命布団に入れてくれたのだと起きた瞬間に悟り、俺は、ひどく申し訳ない気持ちになる。


 ばあちゃんの姿はもう俺の隣にはなく、台所の方からは、柔らかで温かな朝餉の香りと、トントンというばあちゃんの包丁の音がしてきた。


 俺の母さんは、パン派で、料理は俺が作るし、(父さんも母さんも朝は残業のし過ぎで遅く、俺は朝、母さんたちの食事を準備し、学校へ行く)だから、ばあちゃんのこんな様子は、俺は嬉しくて同時に、びっくりするぐらい嬉しいんだ。


 俺は、慌てて、寝室にしているのだろう、部屋の押し入れに、俺には少し大きい布団を一生懸命綺麗に畳んで入れると、いつの間にか着せられていたパジャマをほんの少し恥ずかしくなりながら、持ってきた、普段着に着替えた。普通にTシャツに短パンのいつもの恰好だ。


 「ばあちゃん、おはよう」


 着替えさせられていたパジャマについて、文句を言うべきか否か、悩みながら台所に向かうと、割烹着姿のばあちゃんの小さな後ろ姿が見えて、俺は何も言えなくなる。


 振り向いたばあちゃんの顔を目にして俺が言った言葉は、


 「昨日はありがとう。ねむってしまってごめん」


 だった。


 ばあちゃんは、にこにこしながら、顔を洗ってきなさいと俺に言い、炊き立てのご飯と大根のお味噌汁、アジの干物と、大根おろし、手作りの青菜の漬物を机の上に乗せた。


 青菜の上には朝のすこし澄んだ空気に恥ずかしそうな鰹節がふにゃふにゃと舞っていた。


 俺は、思わず、うん。と嬉し気に声に出すと、慌てて、外に出る。


 家の中にも水道は引いているけれど、俺は、ばあちゃん家に来たら、朝、顔を洗う水は、外の山からの湧き水で洗うと決めているんだ。


 山から湧き出る水は竹の筒を伝い、尖った口から今日も冷たい水を下に設置された桶に落とす。


 桶からあふれ出した水は、朝の清純な光に照らされて、とろりとうすくやわらかに光る。


 俺は、嬉しくなって、甘やかな、冷たい水で顔をぱしゃぱしゃと何度かに分けて、洗った。


 首にかけた俺の持参したスポーツタオルとよくわからんが、少し不似合いな気がして、ちょっとおかしくなる。


 明日から、ばあちゃんが備えてる手ぬぐいやタオルで顔ふくことにしようと俺は思う。


 朝飯をばあちゃんと食べる。ばあちゃんは、飯の時に、何か音があることが好きじゃないみたいだ。


 だから、周りに満ちているのは、鳥の鳴き声とばあちゃんの雰囲気とこの田舎の空気だけだった。


 俺は、そんなばあちゃんの様子をぼんやり眺めながら、今日俺、田舎、嫌だと思ってねえのな。


 って、自分に対して不思議に思っていた。


 ばあちゃんは、そんな不思議そうな俺の様子に気をとめて、俺に言った。


 「敏郎、今日は、どんなふうに過ごすね?ばあちゃんは、いつものように畑の世話があるから、畑にいくけれど」


 ばあちゃんを見つめて、俺は、しばし考える。


 「う~ん。愛美が来るかもしれねえし、夏休みの宿題もあるし、あと……」


 (本の続きが気になるんだ……)


 とは、何故か恥ずかしくて言えなくて、俺は言葉を濁した。


 その俺の言葉を聞いて、ばあちゃんは何に安心したのか、ほっとした顔をして、

 そうね。と、一言口にすると、また、言葉を続けた。


 「遊びに行くのは構わんけどな、あんまり危ないことと、遠くに行き過ぎることはやめて、お昼ごはんには帰ってきんね。今日は、ばあちゃん、敏郎の好きな、茄子と赤トマトのカレー作るな。愛美ちゃんも一緒にお昼にすればよか。おやつに昨日のスイカもあるから、忘れんで帰ってこいな」


 俺は、うん。と、嬉しくなって頷いた。ばあちゃんのカレーは、俺の大好物だ。

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