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7.僕とここの環境と

 なんとも気まずい雰囲気のまま、僕は、朝方の田邉を見る。早朝の特別冷たい風が工場のシャッターを開けた途端に入り込んできた。僕の環境は、水とサビを嫌う僕の身体にとって悪くない環境だと思う。工場の作業場は、全て屋根で覆われ、シャッターを開けなければ外の風も雨も打ち込まない。おやじさんが、少し前に自分たちの手で造りかえたばかりの改装した広い工場。一月の肌寒い空気の中、僕はまだ冷たい車の身体をぶるるっと震わせる。僕ら意思のある自動車は、減らないくらいのほんのわずかな燃料をもとに意識をほんの少しだけ引き上げることが出来る。でも、頭はあんまり回らない。起きたばっかりで、ちょっとくらくらする。僕は冷たい朝方に弱いんだ。


 僕ら、意思のある自動車、と、一言で言っても、全ての車に意思が備わっている訳でもない。僕ら、車は、一番初めに人の手でこの世に生み出されてから、常に人の生活と共にあるけれども、全ての車に意思があるわけではないことも僕は知ってる。


 自動車の種別は、車両法による分類と、用途による分類、車輪数による分類、駆動輪の位置による分類、エンジンの位置による分類、エンジンの種類による分類で大まかに分けられる。


 僕は、軽自動車で、FF式、ガソリンエンジンで……、田邉はかっこ悪いって常に僕の容姿を非難するけれど、今流行りのトールワゴン型で、軽だけれど、車内も広々だ。


 ふっと僕は、天井を見上げる。冬場は、なんて素晴らしいんだ。南に位置するこの工場では、3月頃には、多くの燕が工場に入り込んできて、毎年、子育てを行う。その時期は、田邉なんかは、可愛いなぁなんて、でれでれ見ているけれど、僕はいつ、僕の美しいボディに燕のフンを落とされないかとひやひやものなんだ。……それに、燕の子たちが、落ちてこないか時折不安にもなる。そんなことも無く、清潔な冷たい風を運んでくる冬場。なんて素晴らしいんだ。僕はもう一度思った。


 そんな僕の横で、朝礼の前の掃除の物音でいつものように目を覚ましたのだろう、電気自動車で充電されながら、目を開けた白い箱バンの電気自動車のおっちゃん、山本さんが、僕に声をかけて来た。


 「……おう、お前さん、毎年、冬場の方が心なし嬉しそうに見えるなぁ。……若いもんは良いなぁ、わし、そろそろ、電池のバッテリーが保たなくなってきとって、フル充電できぬ身体に冬場の冷たい風はなかなかに堪えるぞい……」


 「おっちゃん、何言ってるんだよ。電気自動車なんて格好良いじゃないか!田邉だっていっつも、おっちゃんのこと褒めてるぜ!燃料代もあんまりかかんないし、駆動音も静かだってさ。……僕は、羨ましいけどな……」


 おっちゃんは、少し考えるように言葉を発せずに僕をちらっと横目で見やると、含み笑いをしながら言った。


 「……お前さんは、あんな坊ちゃんの言葉、よく覚えてるんやなぁ。……わしなんかより、ずぅっと、坊ちゃんが好きと見た」


 僕は、少しむっとして、それきり黙り込んだら、おっちゃんがそのままそれに気づかぬふりをして、素知らぬ顔で前を向いた。


 ……なんだい、皆、勝手なことばかり言いやがる。……おやじさんといい、おっちゃんといい、なんだっていうんだよ……まるで僕が何も解ってないみたいにさ……


 僕は、ぼんやり、昨夜の田邉の言葉を思い返していた。


 ——大っ嫌いだ、なんて、田邉から初めて言われたんだ……


 

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