69.銀河鉄道の夜(1)
俺は、うんざりするような、あまり好きではない本の匂いのする、功労おじさんの部屋を眺めて、息をひとつつくと、青い月あかりに照らされる明るい天井まで届く大きな本棚を見つめた。
うんざりすることに、なんと、きちんとあいうえお順に並んでいるらしいことを知って、俺は、心の中で、ぜってえ、功労おじさんとは話が合わないだろうと思えた。
図書館みたいに本を並べられる功労おじさんと、本の匂いすらうんざりする俺とはまるで水と油だ。
まぁ、兎を見て犬を放つというしな。俺は、いくら失敗しても遅すぎることはねえと思うし、功労おじさんみたいな完璧そうな人とは反りは合わねえだろうけど、俺は、失敗しても、何度でもやり直すぜ。
俺は、頭の中で知っている唯一のことわざを唱えて、自分でも何を言っているのかわからないことをもごもご考えて言い訳しながら、銀河鉄道の夜を手に取った。……因みに、失敗云々は、察してほしいが、愛美に与えた第一印象が失敗だったのでは?と、ちょっと後悔しているから出た思考だ。俺だって人間だからな、好きな子には、好かれたい。彼女が功労おじさんのような俺とは反りの合わない人が好みなのかもしれないと、薄々気づいていても、俺は、なんとなくそのままじゃあ嫌な気がしたから。
彼女が望むなら、俺は、宮沢賢治を好きになるし、銀河鉄道とやらも読むし、それどころか、俺という言い方を僕という言い方にも変える覚悟なんだ。
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俺は、銀河鉄道の夜をぴらりと一枚めくった。




