65.宮沢賢治(5)
彼女からよくよく聞いた話によると、彼女は俺の2歳上の小学6年生らしかった。6年生の国語の教科書にやまなしという詩が載っているらしい。彼女は、父親が他界した日をきっかけに、この田舎の小学校に転入し、母方の祖母の元で世話になっているらしかった。どうやら、功労おじさんとは、大分仲が良かったらしく、銀河鉄道も、やまなしも功労おじさんが彼女に遊びながら教えた話らしい。銀河鉄道の話、俺はよく知らねえけど、部屋に天体望遠鏡があるくらいだ。星が好きな人なのかもしれない。功労おじさんは。
功労おじさんと、彼女が知り合ったのは、おじさんが天体望遠鏡で空を見上げている場所が、彼女の一人で泣けるスポットだったかららしい。
父さんが亡くなって、哀しくとも、優しいばあちゃんの傍では涙を見せられないのだと彼女はそう俺に言った。
俺が2歳も年下だと知った彼女は、今までの殊勝な態度を一変させて、言葉遣いを変えてしまった。俺は、その彼女の姿に天使の幻影を粉々に打ち砕かれた。
「そっか。あんたは、夏休みで、宮沢賢治なんて知らねえって言うのね。功労さんと大違い!言葉遣いも美しくないし!いいよ!僕が、君の言葉遣い、及び、君を鍛え直すっ」
俺は、唖然と彼女を見つめた。彼女は、相変わらず、天使みたいに綺麗なのに、言葉遣いは残念過ぎるほどに漢らしかった。




