58.つくねばあちゃん
親父は、仕事人間で、母さんもそうで、また夏休みは、田舎のばあちゃん家。俺は、うんざりする気分で、あまり乗客も乗っていない、バスに乗って、停留所に停車した、バスの窓から、外を見つめた。
うっかり覗いてしまった景色は、……それでも、はっとするぐらいは、美しくて、俺は、ちょっとだけ、自分の口汚い、口の悪さが、ほんの少し、申し訳なくなった。
いや、勿論、口に出して言っていた訳では断じてないが、うろんげな目で、このバスに乗って心の中で、散々ぶつくさ言っていたから、そんな自分に恥じた気分になった、ってことだ。
……現代っ子の俺は、こんな田舎の自然で遊ぶ方法なんて知らないし、元来、引っ込み思案な上に、内気で人見知りな俺は、未だにこの田舎に馴染めていないんだ。ばあちゃんの作る飯は、何回もおかわりするぐらいには大好きだし、ばあちゃんも、どちらかというと、大好きだけど、どうにも、この田舎の空気の中に居ると、俺って人間が……なんだか、溶けて消えちまいそうな、そんな奇妙な感覚に襲われて、この田舎の空気が、俺は苦手だった。自然は、美しいけれど、そこには呑み込まれそうな、なにかがあるような気がして、……どうにも、俺には馴染めないんだ。
--都会の夜景を見れば安心するけれど、田舎の夜空を見たって、心がざわざわするだけだ。……そういった……なんというか、奇妙な、ねじれ、っていうのかな、そういうのが、苦手なんだ。
--つまんねー、俺の思い込みかもしんねーけどさ。あーあ、今日は、どうやって過ごそう……。
まだ、ばあちゃん家に着いても居ないのに、俺は、既に帰りたいと考えている。自分を省みても、俺は、田舎暮らしには向いてねーと思えて、うんざりした気分になる。
ふと、目の前の小柄なばあちゃんが、よろけそうになって、俺は反射的に、腕を出して、ばあちゃんを支えた。
「っぶねぇ。大丈夫か……身体、辛いのか?」
ばあちゃんは、辛そうに、身体を縮めている。弱り切った俺は、放っておけなくて、取り合えず、ばあちゃんを支えて降りようとすると、勝手知ったる乗客の情報なのか、バスの運転手のおっちゃんが、俺の方を振り向いて言った。
「ああ、君、見ない子だね。つくねばあちゃん支えてくれたのか。有難う。つくねばあちゃんは、最近、身体の調子が悪そうでねぇ、きっと、今日も、お孫さんが、つくねばあちゃんをバス停まで迎えに来てくれている筈だから……」
そういって、運転手のおっちゃんは、顔をバス停の方へ向ける。そこには、短髪の、俺と同じ位の、子供?が、立っていた。
「ああ、居る居る。愛美ちゃん」
俺は、人見知りを発動して、あまりその子供の方を見れないでいたのだけれど、運転手のおっちゃんの言葉に、驚いて、思わず、顔を上げた。
(えっ、だって、男みてーな奴なのに、女の子)




