57.初恋
「愛美は、……結構、気の強い奴でな、男みたいな恰好をして、男みたいな言葉遣いをする奴だった。……ただ、当時の俺が、見惚れるくらいには……キレーな顔立ちをしていて……正直に言うと、……実は、俺の初恋の相手だ」
「はっ!?」
僕は、思わず、大きく声を張り上げた。田邊が慌てたように、小百合ちゃんの様子を伺う。彼女は、静かに寝息を立てていて、田邊は、少し安心したように優しい目をしてから、息をひとつついて、また話し始めた。
「おい、静かに聞け。悪いかよ?……俺は、初めて、あいつ、愛美に出会った時、柄にもなくてんぱっちまって、かたくなって、下を向いたぐらいに、愛美の前では自己主張出来なかった。……おい、笑うの我慢しているの丸わかりだぞ……仕方ないだろう、ひとめぼれに近い初恋だったんだ。……本当に、あいつに会った時、俺は、天使ってこんな姿してんのかなって思わず思ったくらいだ。……実際は、キレーな顔立ち以外は、男みたいな気楽な奴だったのにさ。……それが、初めてあいつに会った、初めの第一印象だった」
田邊は、ほんの少し、懐かしむような遠い目をする。その目は、ひどく大事なものを見るように優しくすがめられていた。




