56.田舎のおばあちゃん家
「愛美は……、ああ、愛美は、俺が昔……」
「なんとなく、解るから、続けて。愛美さんが、田邊の話したい過去だって、僕ももう知ってる」
僕は、まだるっこしい田邊の言葉を遮って、そう口を挟んだ。田邊は、少し肩の力を抜くようにして、話始める。
「ああ。愛美は、昔、俺がガキの頃に、俺が田舎のばあちゃん家に居た頃によく遊んでた小さな女の子だった。……田舎なんでな、子供なんている方が珍しくて、俺は、田舎のばあちゃん家に行くと、そいつしか遊び相手が居なかった。俺は別に、現代っ子だからな。外で遊ぼうとも思わなかったんだが、そいつが五月蠅くて、仕方なしに、初めて出会った日、そいつに無理やり外に引っ張り出された」
田邊の表情を僕は見ながら、なんだか、ひどく、つらいように思った。
田邊は、見たことが無いほど、楽しそうに、明るく、面白げに皮肉っぽく話している。まるで、かけがいのないことを一生懸命、ひもとこうとしているみたいに。……否、実際に、そうなのだろう。田邊にとっては、それは過去の、とても大事な思い出なのだ。……今では、忘れたいと、胸をかきむしりたいほどに願う、田邊の大事な思い出。




