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40.たとえ話

「……と、この辺……かな。あいつは……っと……お前見えるか……?」


 田邊は、僕に尋ねた。僕は、答えた。


 「居るね。あそこに。あれ?小百合ちゃん、今日は、スカートじゃないんだ……残念だね。田邊」


 田邊は、なんでもないように遠目から小百合ちゃんを見て、少し呆れた声を出した。


 「今日は微妙に歩くみたいだしな。少しだけれど、小さな滝もあるらしいし。お前、あんなに色気がねえあいつに何を期待してんだ……」


 僕は、残念過ぎる答えを返す田邊を、……こいつ駄目だ……という気分で見た。……小百合ちゃん、結構、可愛いと思うんだけれど、田邊って、本当に色々勿体ない奴だよなぁ……阿呆だし、鈍いし、救いがない……と、思う。


 特徴的な木陰を作っている大木の前で、小百合ちゃんは、僕らに気づくと小さく頭を下げた。


 彼女は、暫く見ないうちに、すっかり見た目が変わってしまっていた。


 長かったふわりとした栗色の髪は、短く耳の上で切りそろえられていた。おでこまで綺麗に見えている。田邊の言葉の通り、今日は活動的な恰好をした彼女は、履きなれているのだろうスニーカーに合わせた細身のパンツと、簡単なシャツの上に少し大きめのパーカー。フード付きのパーカーは、水色で、細身の彼女が、フードを被ると、まるで男の子のように見えるだろうと思えた。


 「こんにちは。田邊さんに、ゆうくん。今日は私の我儘に付き合ってくださって有難う御座います」


 小百合ちゃんは、助手席に座るとすぐにシートベルトを付けた。彼女は、田邊に、籠バックを掲げて見せた。


 「田邊さん、今日は、私、お弁当も作ってきたんです。外で食べましょう」


 「ああ、そうなんだ。それは、嬉しいな。楽しみだ。有難う……それで、電話で言っていた、話したいことってなんだい?」


 小百合ちゃんは、少し考えるように顔を俯けると、田邊の方を見つめて言った。


 「……んー、田邊さん、……私、ちょっと変な話、するかもしれないのですけれど、答えて貰えますか」


 田邊は、考えるようにして、ハンドルを動かしながら答えた。少しずつ、傾斜がついてきた山道。僕らはこれから、少し車の僕で山を登る。


 「はは、なんだい、行き成り。……よっぽど、僕が答えられない話以外なら別に、気にしないけれど……そんなに難しい話なのかい」


 小百合ちゃんは、田邊の方をじっと見つめて、それから、前を向いた。


 「……いいえ、ただのたとえ話なんです。……自動車の声が聴こえなくなった女の子のお話……、ぁ、でも、その子は、もう、今は聴こえているのですが……」


 田邊は、小百合ちゃんの方を見ずに、前を向き運転しながら答えた。


 「……そうか、聞きたいな……音楽は……そこにあるの、適当に君が選んでくれたら良いから」


 僕らは、そんな風にして、そこに向かったんだ。


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