3.勉強すること(1)~素質の話。
……と、いう訳だ。おやじさんの話、聞いてくれたかい?……僕側の事情、これで解ってもらえたと思う。つまり、……解ってくれるかな?僕は、親父さんに恩があって、おやじさんに義理がある。……だからだ!この……正直、苦手としてるこいつ、ポンコツ野郎、田邉の面倒をみてやることに、……僕の自動車としての誇りが約束を守ろうとしているに過ぎない。解ってくれたよね?……うん。解ってくれたならそれでいいさ。有難う。……まぁ、つまり、そういった感じで、僕の口ぶりから薄々目の前のあなたには、伝わってはいると思うのだけれど、僕は、僕はね、物凄く、とんでもなく、非常に、こいつ、田邉っていうポンコツ野郎が嫌いだ。
何故、僕が、こいつ、ポンコツ野郎、田邉を嫌っているか、目の前のあなたは気になるかい?……何故かって、決まってる!……僕は、自動車だ!だから、察して欲しい。あいつ、ポンコツ野郎、田邉は、……つまりはその……、おやじさんの息子の癖に、”自動車の気持ちが全っ然っ、解らないんだ!”
あいつは、運転も下手くそだし……、信じられるかい?あいつは、僕のボディを合計22回も擦ってぶつけて、合計、事故を23回もしたんだ!おまけに洗車も下手くそで、僕の手入れも雑!おまけにあいつは、車に全く愛情がない。僕の身体が調子を崩していたって、あいつは気づかないかもしれない……そんな鈍いところがある、ぼんやりした奴なんだ!あいつが整備士になるってあいつの夢をおやじさんが嬉しそうに話していたのを聞いた時、僕は身震いしたもんさ!絶対無理だっ!!!そう絶叫したのに。
おやじさんは、嬉しそうに笑った。
「……あいつには、お前の声が聞こえるんだ。……俺は、素質はあると思っているよ」
そう、顔をぐしゃぐしゃにして、銅のように鈍く光る肌を笑みの形に崩した。
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