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28.比較
白い自動車は、私の顔をじっと見つめると、……それでも……、と、言葉を続けた。
「……あなたは、とても、小さくて、お可哀想だけれど……私の方が、もっともっと、不幸で、可哀想だわ」
私は、あり得ないものを見るかのように、その白い自動車を見つめたのだと思う。
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「あなたが私なら良いのに。何故、私ばかりこんなにも不幸なの?」
「私は、何故、こんなにも、何も持っていないの?」
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私は、後ずさりをするように、後ろ脚をずりずりと少しずつ下げると、そのうち、くるりと振り向き、その白い自動車のもとから、気づくと駆け出してしまっていた。
……正確には、逃げ出したのだと思う。
……自動車の言葉を聴いていられなかった。……あまりにも、醜くて、あまりにも……幼い私の心では表現しきれないほどの、……なにかを、感じ取り、そこに引きずりこまれそうな思いがしたから……。
……私は、その白い自動車の傍にいることが怖く……なって。
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