38 海と船
……『……何、してるの……?こんなところで』
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俺がぼんやり船のたゆむ音といつの間にやらまた鳴きだした蛙の声とてろりとした美しい光のオブジェを創り出す幻想的な水面をぼんやり見つめていたら、不意に声を掛けられて、俺は、びくっとして反射的に右斜め上を見上げた。
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……そこには、……ずっと自分からは話しかけられずにいた、愛美が立っていて、……けれど、あまり友好的ではない雰囲気のまま、俺を見下ろしていたんだ。
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……決して、愛美が友好的でないからと言って、俺が嬉しくないとかそんなことは無くて、俺は、愛美が話しかけてくれた状況と愛美がそこに居るという状況に一瞬パニックになった。勿論、嬉しくて、だ。
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……言葉を失い、口をパクパクしている俺の様子を気にも留めずに、愛美は、直ぐに俺に背を向けて、そこに留めてある一艘の船に向かって水際に降りていく。……はなから俺からの返事があるとは期待していなかったのだろう愛美の様子に、俺は悲しくなったけれど、その愛美の後ろ姿に目が離せなくて、俺は、その様子を土手からずっと見ていた。
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短い愛美の髪が、てろりとした幻想的な水面の光でほんの少し照らされる瞬間や、愛美の横顔が同じように水面の光でてろりと縁どられる様子がとても綺麗で正確には見惚れてしまっていたのかもしれなかった。




