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部屋に帰り、愛美がくれたカップケーキを口にして、その甘さに胸の奥がずきずきする。どうしようもなく締め付けられて、くるしい。
何故、彼女はこんなに優しいのか、そこから最早、解らなかった。
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いっそのこと、……優しさなど、見せてくれなければよいのに、と思えてしまった後に、打ち消すように首を振る。
―-目の前で愛美に冷たくされれば、どれだけ苦しいかわからない
どうしようもなく俯いた。
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賢治の短編、童話に、『貝の火』というお話がある。広げて、文字を追って、その、どこまでも救いのなさそうな内容に沈む。
調子こいたホモイの様子に自分を重ねて少し哀しい気持ちになって
最初は、よいことをしたはずのホモイ。ひばりの子を助けただから。
けれど、貝の火という宝珠をひばりにもらってからのホモイはひどいもの。
きっと、俺は、このホモイのように目の前のことだけに浮かれて、愛美を傷つけてしまったから、それ相応の痛みをあって当たり前のように思えて。
……俺は俯いて。
けれど、きっと、愛美は、このホモイの父のように、それでも受け止めて励ましてくれるような気がして、
それはとても罪深いことに思えて、
―-俺は、愛美の優しさを利用しようとしているのも同じなのだろうな、とそう、
思えてならなくて




