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「……転校生?」
賢治の創り出した音の洪水の宇宙にいつしか沈みこんでいた俺は、突然声を掛けられて、大きく肩を弾ませた。驚いて肩口に首を回すと、そこには、そばかすの散った優しそうな笑みのやつ。
きっと同じ学校であるだろう同い年くらいのやつが立っていた。
咄嗟に、うろたえながらも、肯定した俺は、内心どきどきしながら、そいつの一挙手一投足を見つめた。俺の制服を見れば、転校生だと一目瞭然なのかもしれない。この辺の近くの小学校なんて、ここから先のしかない。
「あー、やっぱな!愛美が言ってたから、どんな奴がくるんだろうって、皆で噂してたんだ」
そいつは、まるで自らの手柄を自慢するみたいに嬉しそうにそう話す。俺は、そいつが親し気に愛美の名前を出し、尚且つ呼び捨てしたことに対して一瞬でそいつに不快な気持ちを持った。
少し目線を落として、そのような気持ちを悟られないように、軽く、ふうん。と応じる。
俺の気の無い様子に気を悪くするでもなく、そいつは、元気な声で言った。
「ま、いいけど、後で名前とか教えてよ。今、ゆっくり話してる時間無いと思うし。僕、今日遅刻かと思ってたからさー助かったぜ。なあ悪いけど、お前を案内していたから遅れたってことにしてくれない?」
カラッとした笑顔でそう言い放ったそいつの言葉に俺は固まった。
……俺は転入早々、遅刻してしまったらしかった




